誰もが米国の医療保険改革を望んでいる

 オバマの医療改革に関し、CBニュースより興味深い記事が配信された。

米社会のひずみにメス 難攻不落の医療改革に挑む 連載企画「オバマの課題」内政


 1995年、米ハワイ州で1人の女性が息を引き取った。卵巣がん。52歳だった。末期は病床にありながら、医療保険の適用をめぐって保険会社と対立、自分の病状よりも医療費の支払いを心配していた。「何かが根本的に間違っている」。最愛の母アンさんを失ったオバマ大統領は憤る。
 高額の医療費といびつな医療保険制度は、超大国・米国を長い間むしばんできた問題だが、歴代政権はことごとく改革に失敗してきた。保険未加入者は約4600万人。全人口の15%を占め、さらに増える傾向にある。
 「病気の子供を病院に連れて行けないのは親の名折れだ。このままではわれわれは持たない」
 オバマ大統領は「全国民にとって手ごろで利用しやすい医療保険」をうたい、望む者は誰もが加入できる医療保険制度の確立を目指す。医療だけではない。教育、貧困など諸課題への取り組みと合わせて米社会のひずみにメスを入れ「米国の再生」につなげるのが大きな目標だ。
 医療関連支出は米国の予算を圧迫している。その額は年々膨らみ、2007年には2兆7000億ドル(約238兆円)に達した。さらに深刻化する経済危機への対応が新政権の最重要課題として浮上。巨額の財政出動は、医療保険拡充を目指すオバマ大統領の足かせにもなり得る。
 だが大統領の持論は「経済危機の克服には医療保険改革が必要」だ。
 従業員に提供する医療保険は多くの企業に重い負担となり、破綻(はたん)の引き金となっている。さらに失業者が増えると無保険者が増加するという負の連鎖が、経済危機の下で加速している。高すぎる医療コスト、保険制度を根本から是正しなければ解決できない。
 ジョンズ・ホプキンス大のジョナサン・ワイナー教授は「今は企業も医師も、だれもが何らかの医療保険改革を望んでいる。こんなことは珍しい」と述べ、改革の好機と指摘する。
 下院本会議は今年1月14日、児童向けの公的医療保険拡充法案を可決。約400万人の子供が新たに保険の対象となる。大統領が就任前から強力に可決を働き掛けてきた法案で、難攻不落とされてきた医療保険改革への足掛かりといえるが、厳しい戦いはこれからだ。
 医療と並ぶ大きな内政課題は「多くの学校は機能していない」と大統領が就任演説で問題提起した教育改革。
 他国との相対的な学力の低下、高い高校中退率などに警鐘を鳴らす大統領は、米国の競争力を維持するため「21世紀型の教育」が必要と指摘する。大型景気対策では約1170億ドルもの巨額予算を教育関連に充てる方針だ。


更新:2009/01/27 00:00   共同通信社

https://www.cabrain.net/news/article/newsId/20275.html


 医療を市場経済に委ねるという米国型の医療制度が行き詰まりを見せている。
 米国では、高齢者用のメディケアと低所得者用のメディケイド以外は、基本的に私的医療保険制度で賄われている。しかし、医療関連支出は日本など国民皆保険制度がある国と比べ、桁違いに多い。
 企業にとっても、私的医療保険の負担が経営に悪影響を及ぼしている。GMなどビック3の経営が破綻した理由のひとつとして、退職後まで私的医療保険を負担する従業員優遇制度、レガシーコストの問題があげられている。
 私的医療保険負担の増大に伴い無保険者が増えている。このこと自体が、米国における貧富の格差を拡大し、経済的活力をそいでいる。
 クリントン政権時に、医療保険制度改革がはかられた。しかし、民間医療保険会社など利害団体の圧力で頓挫した。米国経済の危機は根深いが、逆にこの危機が「変革」を求める声の高まりをうみ、医療制度改革の好機をもたらしている。「今は企業も医師も、だれもが何らかの医療保険改革を望んでいる。」という事態を生かし、強欲資本主義の代表ともいえる民間医療保険会社に対する規制を進めなければならない。オバマ政権の医療政策を今後も注視したい。