高齢ドライバーに対する認知機能検査

 道交法改正に伴い、今年6月より、75歳以上のドライバーを対象に認知機能検査が導入される。

75歳以上の運転免許保有者 都内1600人認知症の可能性
2009年1月8日 朝刊


 七十五歳以上のドライバーを対象に、判断力などを簡易検査する「認知機能検査」が今年六月から導入されるのを前に、警視庁は、東京都内で運転免許を持つ七十五歳以上の人のうち、認知症と最終的に診断される可能性のある人が約千六百人に上るとの試算をまとめた。


 警視庁は認知症が疑われる人には専門医がいる病院を紹介しており、今後、紹介件数の増加が見込まれることから、委託先の病院を現在の都内六カ所から十カ所程度に拡大して対応する方針だ。


 認知機能検査は、運転免許の更新時に三十分ほどのペーパーテスト形式で行う。日時を答えてもらったり、動物などの絵を見てもらい、いくつ覚えられるかなど時間感覚や記憶力を確かめる。


 警視庁運転免許本部によると、都内の七十五歳以上の運転免許保有者は昨年十一月現在で約十六万二千人。警察庁が実施した認知機能検査の試験データをもとに同本部が独自に分析したところ、1%に当たる千六百人程度が、認知症と専門医に診断される可能性があるとの試算が出た。


 警視庁は現在、交通事故を起こした高齢者に認知症が疑われる場合、各警察署から通報を受けた運転免許本部が、専門医がいる委託先の病院を紹介している。昨年一月から同十一月までの間に計二十一人が認知症と診断され、大半の人が免許証を自主返納。免許取り消しの行政処分を受けた人も二人いた。


 今年から従来の取り組みに加え、認知機能検査が導入されることから、警視庁は委託先の病院を増やす必要があると判断。地域に偏りなく病院を確保するため、新たに四カ所程度の病院に引き受けを要請している。


 七十五歳以上の運転者が交通事故の原因になるケースは二〇〇七年、全国で四百二十二件発生。その十年前の二百八十三件に比べて約一・五倍に増えており、同年の道交法改正で認知機能検査の導入が決まった。


 警視庁運転免許本部は「認知機能検査は高齢者から免許証を取り上げるためではなく、その人に合った運転指導をするのが目的。高齢者の運転による事故が増えている背景も踏まえ、理解を得ていきたい」としている。


 <認知機能検査> 75歳以上の人が運転免許証を更新する際、判断力や記憶力などを調べる簡易検査。(1)認知症の恐れがある(2)認知機能低下の恐れがある(3)認知機能低下の恐れなし−の3分類で本人に伝え、高齢者講習の内容にも反映させる。


 (1)と判断され、かつ過去1年間に信号無視や一時不停止など15項目の基準行為に該当する違反があった場合、専門医による診断(臨時適性検査)を行い、認知症と認められた場合、免許取り消しなどとなる。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009010802000076.html


 どうやら、この認知機能検査は、東京都老人総合研究所で開発されたもののようである。http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/books/roukenj.html#223内にある、No.223 平成19年11月発行(pdf 977KB)に、高齢者に適した集団版認知機能検査の開発という記事がある。

 従来から用いられている認知症のスクリーニング検査には、長谷川式簡易知能評価スケールやMMSE(Mini-Mental State Examination)などがあります。しかし、これらは検査者と面接形式で行われるものであり、複数の人を対象に実施することができません。また、軽度の認知症例に実施した場合、特にMMSEで鑑別の制度が低下することが報告されています。

 現在、導入が検討されている認知症簡易検査は、Solomonら(1998)が開発したThe 7 Minute Screenという認知症のスクリーニング検査を集団で実施できるよう変更を加えたものです。この検査は、

  1. 時間の見当識:年月日、曜日や時間などを尋ねるもの
  2. 記憶:何枚かのイラストを憶えてもらい、一定時間後にその記憶を問うもの
  3. 視空間認知:時計の文字盤を描き、さらに指定した時刻の針を描き入れてもらうもの
  4. 言語:あるカテゴリー(例.花)に含まれるメンバー(チューリップなど)をできるだけたくさん思い出してもらうもの

 という4つの下位検査から構成され、20分程度のペーパーテスト形式での実施が想定されています。

 今回ご紹介した検査は現時点での暫定的なもので、現在、本検査結果と実地教習結果との関連について検討が行われています。今後警察庁において、実施方法や採点基準等を含めてさらに慎重な検討が加えられ、検査導入の目的に合った形式で実施されることになるでしょう。


 高齢者ドライバーの交通事故が増加の一途をたどっている。今回、「認知症簡易検査」でスクリーニングをし、専門医がいる医療機関で精密検査をするという画期的な方式が導入された。確かに、長谷川やMMSEでは軽度認知症を見逃すおそれがある。
 ネットで調べた限りでは、実際に使用されるテストバッテリーはまだ公表されていない。実施に向けて調整中と推測する。
 専門家が不在でかつ対象者が多い場合でも使用可能であることが最大の特徴である。認知症のスクリーニング検査として有効性が証明されるならば、運転免許更新時以外にも使途は広がる。例えば、介護予防事業対象者のスクリーニング検査、要介護認定時の使用などでの利用が考えられる。