日本義肢装具学会誌の特集「小児の四肢欠損・切断と義肢」

 日本義肢装具学会誌25巻1号(2009年)、「小児の四肢欠損・切断と義肢 −発達に視点をおいた適応と事例−」という特集があった。特に、筋電義手と小児の発達との関係についてが興味深い。以下、関連する論文をまとめてみた。

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【参考Web Site】


【紹介文献】

  • 古川宏: 発達を考慮した義手の適応と訓練 −作業療法士の立場から−、義装会誌25(1):15-21、2009
  • 柴田八衣子ほか: 上肢欠損に対しての義手使用、訓練(作業療法士から) −乳幼児からの筋電義手アプローチ、義装会誌25(1):39-43、2009

1.小児筋電義手(古川)

  • 世界のシェアの70〜80%をドイツ(OttoBock)が占め、イギリス(Stepper)、カナダ(VASI)が続く。表面電極で取った2チャンネルの筋電信号を検出するとスイッチが入るON-OFF制御方式と、筋電位の強さに応じて把持力やスピードが変化する比例制御方式がある。
    • イギリスでは、小児切断の場合、70%は幼少時から筋電義手を使用している。
    • カナダでは、経済的負担をさせないように配慮して年齢に合った義手を装着できるシステムと訓練システムが確立している。
  • 我が国の筋電義手の支給制度
    • 両側上肢切断の片側の義手のみ筋電義手が支給され、価格の上限が63万円以下で全国数ヶ所の病院のみが承認施設であった。
    • 最近価格表に部品名が記載され関係施設、指定医、行政機関が認めれば支給可能となったが、最終判断が市町村に委ねられたことで専門家のいない窓口では以前より支給が困難な状況も見られてきた。
    • 東京都補装具研究所が解散した今では、十数例以上の小児能動義手と筋電義手の経験を蓄積しているのは兵庫県リハビリテーションセンター以外にはない。

2.事例報告(柴田ほか)

  • 兵庫県リハビリテーションセンターで生後10ヶ月からOT施行。
  • 装飾用義手(義手の導入): ソケット作成は11ヶ月、義手装着は1歳から開始。
  • 筋電義手訓練(1電極)
    • 正中位での両手遊び: 1歳4ヶ月より開始
    • Release(把持していた物を放す)動作の準備
    • Release(把持していた物を放す)動作の定着: 1歳5ヶ月
    • Grasp(把持)動作の定着: 1歳7ヶ月
    • 両手動作や把持動作: 1歳11ヶ月
  • 筋電義手訓練(2電極) 開きと閉じる動作が分離して行える
    • 2電極の移行に向けた準備: 2歳4ヶ月
    • 筋収縮の分離訓練: 2歳6ヶ月
    • 成長に合わせた義手の活用開始: 3歳。幼稚園時には、なわとびで積極的に使用するようになった。
  • より早期から義手を装着し義手を活用した生活をおくることは、子どもが両手を使ってやりたいことや模倣や楽しみを、ひとつでも多く体験できる。本人にとって生活の質の向上につながる。


 今回、文献を読んで初めて筋電義手について系統的に勉強する機会を得た。筋電義手を作製することは、症例が集まる大学病院やリハビリテーションセンターでもほとんどない。残念ながら、この分野では日本は著しく遅れている。障害を抱えた子どもの健全な発達を促す意味でも、小児分野における筋電義手の普及を望む。
 アシステック通信の記載をみると、諸外国では人口10万人あたり0.5〜2本筋電義手が作製されている。同様の判定基準でいうと日本では年間600〜2,400本の間になると推定される。しかし、現在は年間販売数は十数本程度である。筋電義手1本あたりの価格が60〜100万円であることを考えると、年間3.6〜24億円となる。財政負担は著しいものではない。両上肢切断の片側のみという基準を変更すれば、適応が広がる。
 日本の工学技術の水準の高さを考えると、義肢分野でより高品質で低価格の製品を生み出す力がある。筋電義手には潜在的市場がある。医療関係産業の育成という視点からみても、義肢装具支給システムの改善は必要である。