「リハビリテーション科専門医需給」に関する報告

 日本リハビリテーション医学会、「リハビリテーション科専門医需給」に関する報告 | 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会より。

要旨


 近年の医療環境の大きな変化や増大するリハビリテーション(以下,リハ)の社会的ニーズに対し,リハ科専門医数の不足あるいはリハ科専門医不在によるリハ医療の質の低下が指摘されている.実際に全国にどの程度のリハ科専門医が必要なのかについて,いまだ学会内部での正式な議論はなされていない.リハ科専門医会では専門医会独自の研究・調査活動の一つとして,同会内部に「リハ科専門医需給に関するワーキンググループ」を設置し,将来のリハ科専門医の必要数を検討した.


 リハ科専門医がカバーする領域は保健・医療・福祉分野に至るまで幅広く,その専門性と役割は他科と比べてきわめて広いという特殊性がある.リハ科専門医必要数を算出するにあたって,リハ科専門医は疾患単位ではなく障害を中心に横断的な診療を実施すべきであり,さらにリハ医療の質向上のためには専門医の役割分担をもっと明確にすべきであるという観点から,専門医の役割を1)臨床急性期・一般病床,2)臨床回復期,3)臨床維持期・地域支援,4)教育・研究の4領域に分け,各分野における必要数を推計した.


 各領域での調査検討結果をまとめると,2007年4月現在の専門医数1,384人に対し,必要数は合計で3,078〜4,095人と推計され,不足数は1,694〜2,711人と算定された(表).


 リハ科専門医数は1980年から毎年30〜50人の割合で増加傾向にあるが,専門医3,000人の到達が2047年,4,000人到達が2069年の見込みであり,そこからさらに資格喪失者や死亡者を差し引くと必要数を満たす可能性はない.現状のままでは,社会的ニーズに到底応えることはできず,リハ医療の質も担保することができない.専門医育成・増加に向けた抜本的な対策が必要である.


 本報告は,その要旨であり,詳しくは第2回リハ科専門医会学術集会パネルディスカッション「リハ科専門医の需給を考える」(本誌45巻8号掲載予定)*1を参照されたい.


 「臨床研修に関する調査」最終報告|厚生労働省内にある「臨床研修に関する調査」 報告のポイント(PDF:421KB)をみると、リハビリテーション科を志望する研修医数は次のとおりである。
# 研修後に専門としたい診療科(専門とする診療科が決まっていると答えた者の中の割合)

  • 平成18年度: 18/3,847(0.5%)
  • 平成17年度: 15/3,298(0.5%)


 日本では、リハビリテーション科が講座となっている大学は少ない。また、新臨床研修制度となって以降、初期研修2年間にリハビリテーション科を経験する機会も減った。この結果、卒前・卒後教育いずれにおいても、若手医師はリハビリテーション医学をほとんど知らずに過ごす。リハビリテーション科を志望する研修医は、0.5%にすぎない。
 リハビリテーション科専門医がいる一部の臨床研修指定病院では、後継者育成に成功している。急性期病院の中で、横断的な診療科として活躍する専門医の姿を見せることが、リハビリテーション医学の魅力をアピールする。「嚥下障害」や「重症ハイリスク」の患者への対応、「地域医療」の実践などが鍵を握る。経管栄養の寝たきり高齢者にリハビリテーション科が関わると、なぜ経口摂取が可能となり、歩行もできるようになるのか。「臓器不全」のかたまりのような患者に対し、ADLへの直接的かつ継続的な関わりをすることがどのような効果をもたらすのか。要介護患者に対し、介護保険制度や福祉制度に通じたリハビリテーション科専門医が関わり、安全で安定した在宅生活をどのように構築していくのか。これらの取組みを通じ、リハビリテーション医学への関心が高まる。当然のことながら、脳卒中発症直後や整形外科の術前後に積極的なリハビリテーションサービスを提供することも研修医と接する機会を増やす。
 「専門医育成・増加に向けた抜本的な対策」として、学会レベルでは様々な検討が行われている。その中でも、臨床研修指定病院リハビリテーション医療を積極的に展開することこそが、戦略的に重要性が高い課題であると常々思っている。

*1:佐伯覚ら:「リハビリテーション科専門医需給」に関する報告.リハビリテーション医学、2008;45:528-534.