脳卒中患者が自宅に退院するための条件

 「回復期リハビリテーション病棟在宅等復帰率に関係する因子」というエントリーに関する参考文献を示す。


1)二木立:脳卒中患者が自宅退院するための医学的・社会的諸条件.総合リハ 11:895〜899、1983.

 「脳卒中患者が自宅に退院するための3条件」を示した。

  1. リハビリテーションにより、歩行が自立すること、少なくても、ベッド上生活が自立すること。
  2. もし、全介助にとどまった場合は、最低常時介護者1人プラス補助的介護者1人が確保できること
  3. 全介助にとどまった場合、往診・訪問看護等の在宅医療サービスが受けられること、および病状が悪化した場合、再入院(「間歇入院」)が可能であること。


 その後の研究でも、退院時のADL、及び介護力が自宅退院の重要な因子であると報告されている。

2)中村桂子ら:脳血管疾患患者の自宅復帰に及ぼす社会生活因子の影響.公衆衛生 53:427 - 432、1989.

 「日中介護者1人以上」がオッズ比12.20と最も強い関連をもつ因子。「トイレ動作自立」、「下肢の麻痺が軽度」、「居住地域の低生活保護率」も関連があった。


3)近藤克則ら:脳卒中リハビリテーション患者の退院先決定に影響する因子の研究 多重ロジスティックモデルによる解析.日本公衛誌 46:542 - 550、1999.

 Barthel Index(BI) が高く(オッズ比1.36)、家族数が多く(1.84)、介護力が大きい(1.94)と、自宅退院を促進し、一方、病型が出血(0.39)、生活保護受給(0.04)は自宅退院を阻害した。


4)植松海雲ら:高齢脳卒中患者が自宅退院するための条件 −Classification and regression trees(CART)による解析−.リハ医学 39:396-402、2002.

 CARTによる解析の結果、FIMトイレ移乗、家族構成人数からなる決定木が得られ、トイレ移乗が要介助でかつ家族構成人数が2人以下の場合は自宅退院が困難(自宅退院率21.7%)などのルールが得られた。


 自宅退院率に関し、入院時のADLを用いた研究もある。
5)近藤克則:回復期リハビリテーション病棟.総合リハ 32:305-311、2004.

 入院時BIが85以上/0-10でオッズ比31.69、55-85/0-10で3.27、介護力がなし/0.5人/1人/1.5人以上で2.35などの結果を得た。


6)近藤克則:医療改革とリハビリテーション医学のエビデンス.リハ医学 43:651-657、2006.(考察で用いられている元データは、日本リハビリテーション医学会:リハビリテーション患者の治療効果と診療報酬の実態調査.リハ医学 41:133-136、2004.で収集されたもの。脳卒中以外の疾患を含む。)

 若年層、合併症数が少ない、入院時BIが高い、入院日数が短い、訓練量が多い、介護力が高い、MSWが関与しない場合に、自宅退院が多い。


 どの論文も、ADLで示される患者重症度と、家族人数で代表される介護力が、自宅退院率に深く関係していることを示唆している。