基礎年金全額税方式の問題点

 基礎年金全額税方式の問題点について、http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/0a01aafa8c400981ac7dd371d3bfb542/page/1/#より。

 大勝した2004年の参議院選挙以来、民主党公的年金改革を総選挙のたびに公約に掲げてきた。そして、民主党とは思惑を異にしながらも、経済財政諮問会議の民間議員、日本経団連経済同友会などの経済界、連合、「改革論者」を自認する学者、さらに日本経済新聞、一部の自民党議員などが声をそろえて主張してきたのが、基礎年金の全額税方式化だった。ところが、その税方式への移行が現実的に不可能であり、かつ税方式化の最大の目的とされていた未納・未加入者対策にも効果が期待できないことが、最近明らかになった。

 未納・未加入によって、その年度の給付に必要な保険料が集まらなくても、年金積立金の取り崩しで充当される。一方、未納・未加入者は将来の年金給付を受けられないため、将来の年金財政にとって、未納・未加入者の存在はプラスに働く(つまり、財政的には中立。厳密に言えば、積立金の運用益の分だけ、財政影響はある)。こうしたメカニズムが働くため、未納・未加入問題は年金財政の根幹を揺るがすことにはならない。また、「納付率66・3%」(06年度)*1は第1号被保険者に限ったもので、未納・未加入者340万人は公的年金加入者7059万人と比べた場合、4・8%にすぎない。

 では、なぜ税方式になるとサラリーマンや自営業の低所得者、高齢者など、国民の多くが損をするのか。これは、税方式化に伴い、年間3・7兆円に上る基礎年金部分に関する事業主負担が消滅するためだ。つまり、「企業からサラリーマンにコストシフトが起きる」(社会保障国民会議メンバーの権丈善一・慶應大教授)のである。煎じ詰めれば、税方式化でメリットを受けるのは、保険料を払えない低所得者ではなく、専ら企業なのだ。


 基礎年金全額税方式の問題点については、権丈善一氏が繰り返し指摘している。最近では、文芸春秋2009年1月号でも同様の主張をしている。一部を引用する。

 経済界が保険料負担を嫌がる理由の一つは、社会保険料は一種の外形標準課税のようなものであり、企業の好不調にかかわらず、従業員数に応じて一定の負担がかかる側面があるからだろう。確かに、近年のような不況下においては企業の負担感は大きくなる。だが、安定した年金の給付とは、負担も安定しているからこそ成立する。景気の変動に合わせて、保険料負担が増減するのでは、安定した年金給付は望めない。
 ちなみに日本の社会保険料の負担は相当低い。GDPに占める社会保険料の割合をドイツと比較すると約7割、フランスとでは6割程度の水準にすぎない。

 経済界は社会保障の負担から逃れることばかりを考えるのをそろそろ諦めてはどうか。従業員が老後の心配をしないで安心して働けることは、それこそ日本型経済の強みと魅力ではないのか。


 権丈善一氏は、日本と同じ社会保険料方式をとるドイツとフランスを比較対照として取り上げている。ちなみに、イギリスは税方式をとっている。アメリカは税・社会保険料とも少なく、医療保険は民間保険に依存している。
 企業は社会保険料負担を軽減しようと目論んでいる。特に今後の高齢社会の進行とともに社会保障費は急騰する。そこで、厚労省を通じて、様々な対策をたてようとしている。しかし、厚労省に対する国民の信頼が失墜する中で、思うに任せない事態となっている。昨日のエントリーで少し触れたが、奥田碩氏(トヨタ取締役相談役)が苛立つのも分かる。
 厚労省は、年金ばかりではなく、医療・介護・雇用など生活に密着する分野を担当している。行政府の一つとして、お金を負担する側(企業など)に顔を向けるのか、サービスを受ける側の立場に立つのか、その存在意義が問われている。

*1:注:国民年金の納付率