「失語症者、言語聴覚士になる」

 先日、平澤哲哉氏の講演を聴いた。氏の著書、「失語症者、言語聴覚士になる −ことばを失った人は何を求めているのか」、「失語症の在宅訪問ケア −続 失語症者、言語聴覚士になる」をご紹介する。

失語症者、言語聴覚士になる―ことばを失った人は何を求めているのか

失語症者、言語聴覚士になる―ことばを失った人は何を求めているのか

失語症の在宅訪問ケア―続 失語症者、言語聴覚士になる

失語症の在宅訪問ケア―続 失語症者、言語聴覚士になる


 本書には、次のような文章が繰り返し出てくる。

  • 「ことばは病院だけではよくならない。一人でもよくならない。」という大原則の下、私は地域で困っている失語症者と家族のためになりたい。
  • 失語症とは孤独病である。「自分には仲間がいる」という意識は、同じ困難を抱えている人を心強くする。
  • 失語症者は、「できないだらけの自分」に喪失感を抱く。自分は「いろいろとできる」ということを確認し、自信を取り戻していく過程が重要である。
  • コミュニケーション障害の最大の問題は、患者さんを取り巻く関係障害を修復することである。
  • 失語症者の最大の理解者であるはずの言語聴覚士が、彼らの味方になり、また話せるようになりたいという気持ちを代弁していかなければ、誰がその方たちを救えるというのか。なぜ、「もう限界です」と短期間の訓練で宣告するのか。


 平澤哲哉氏は、大学生の時に交通事故に遭い、左硬膜下血腫と脳挫傷を受傷し、その後遺症として失語症者となった。その当時の心の葛藤が著書に詳述されている。「できないだらけの自分」に喪失感を抱いていた失語症の自分が、友人や職場の助けを得ながら、自信を取り戻していく過程が描かれていく。

 孤独の殻のなかでもがいていたあの時には、決して向上しなかった能力が、訓練室の中でうけるリハビリテーションではなく、実生活で体験していくなかで会得していく、いわば「生活リハビリテーション」の期間にはじけるように伸びていったのだと思います。


 本書には、失語症者の再生が描かれている。失語症者自身にしか分からない辛さが描かれている。同時に、失語症者と言語聴覚士という両面性を生かし、失語症者自身が自分の障害を語るという稀有な本であり、リハビリテーション専門職としての知的好奇心を強く刺激する。
 「失語症者、言語聴覚士になる −ことばを失った人は何を求めているのか」、「失語症の在宅訪問ケア −続 失語症者、言語聴覚士になる」は、言語聴覚士という仕事の魅力が満載されている。リハビリテーションの面白さが詰め込まれている。1人でも多くの方にお読みいただきたい。


 なお、平澤哲哉氏が運営している言語聴覚士(ST)の在宅訪問ケアというサイトに、氏の活動が詳しく紹介されている。ご参考にしていたたきたい。