脳卒中後遺症患者、診療報酬改定でスケープゴートに

 週刊東洋経済2008年11月1日号は、「特集 医療破壊」という衝撃的な題で刊行された。「医療崩壊」ではなく、「医療壊」であることに注目して欲しい。現在の医療の困難は、自然に生じたものではなく、人為的なものであることをタイトルが示している。
 「特集 医療壊」の記事をWeb上で見ることができるようになった。その中より、障害者施設等病棟の現状についての記載がある、診療報酬改正でスケープゴートに、再入院もままならない脳卒中後遺症患者の苦難を紹介する。

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診療報酬改正でスケープゴートに、再入院もままならない脳卒中後遺症患者の苦難


# 東京都足立区の柳原リハビリテーション病院(藤井博之院長、総病床数100床)の場合

  • 同病院3階の「障害者病棟」(40床)の算定を10月1日より断念。
  • 病院の収入が月に550万円も減少。年間収入約10億円中、半年で7000万円近くも穴が開く。
  • 難病患者など引き続き障害者施設等入院基本料の対象となる患者の受け入れを増やすことで、再び障害者病棟の入院料の算定を目指しているが、道のりは厳しい。
  • 病院の危機は、患者の危機と表裏一体。「不採算」の患者は行き場を失う。


# 発端は療養病床再編 患者支援の機能が欠如

  • 厚生労働省幹部の発言。「障害者病棟には、本来の目的にそぐわない患者が多く入院している。そういった方々は、(介護保険対象で医療従事者が少ない)老人保健施設などに移っていただきたい」
  • 06年度の診療報酬改定で、療養病床(医療保険適用)に患者の医療必要度に応じた「医療区分」を導入。医療行為が比較的少ない患者に関する診療報酬を採算割れの水準にまで引き下げた。
  • 医療区分導入を機に、相対的に診療報酬が高い障害者病棟に転換することで経営悪化と患者の追い出しを回避しようとした。改定前の05年から2年間で、同病棟の病床数が5割増の5万床に達したことがその事実を物語る。
  • 介護施設を含め、脳卒中患者を長期で支える仕組みを欠いたまま、障害者病棟を大幅に見直したのは歴史に残る失策だ」(藤井院長)。


 2006年改定で医療保険の療養病床が経営的になりたたないようにさせた。そして、障害者施設等病棟に転換したところを狙い撃ちにするように、2008年改定では、障害者施設等病棟から脳血管疾患後遺症者をはずした。
 「平成19年国民生活基礎調査の概況」、要介護者等の状況をみると、介護保険要介護認定者の「介護が必要となった主な原因」のうち、脳血管障害は23.3%であり、最も多い。さらに、要介護度が上がると脳血管障害の占める割合が増え、要介護4で36.3%、要介護5で35.5%となる。ちなみに、認知症は14.0%と第2位であり、要介護4で17.7%、要介護5で18.0%となる。要介護4ないし5という重度障害者中、脳血管障害と認知症であわせて過半数を占める。この2つの疾患が障害者施設等病棟を利用する対象から除外された。
 受け皿となる介護保険3施設中、介護療養病等は2012年度末で廃止が決まっている。老健と特養は利用者が増えると介護保険財政を圧迫することになることもあり、整備が進まない。転換型老健や有料老人ホーム、グループホームを含め、在宅で生活することが困難な脳血管疾患や認知症患者の受け皿はない。
 厚労省官僚は、医療保険財政を圧迫する元凶として、脳血管疾患や認知症を目の敵にしている。メタボリックシンドローム対策強化も脳血管疾患予防という意味合いが強い。疾病管理は自己責任で行うものであり、脳血管疾患になるような不摂生者に対しては情けはいらないということなのだろう。