現場に責任を負わせ知らぬ顔

 昨日に引き続き、麻生発言をとりあげる。毎日新聞麻生首相:医師確保に関する発言 要旨より。

麻生首相:医師確保に関する発言 要旨


 麻生首相の全国都道府県知事会議で行った、医師確保に関する発言の要旨は次の通り。


 医者の確保は、自分で病院を経営しているから言うわけではないが、大変だ、はっきり言って。社会的常識がかなり欠落している人が多い。うちで何百人扱っていますからよく分かる。ものすごく価値観なんか違う。そういう方らをどうするかっていうのは真剣にやらないと。


 小児科、(産)婦人科が猛烈に(医師が)足りない。急患が多いからだ。皮膚科なんか水虫の急患はいない。だったら(多忙な診療科は)その分だけ(診療報酬の)点数を上げたら、どうですかと。いろいろ言っていると問題点がいっぱい指摘できる。(以前)必ずこういう事になると申し上げて、答えが出てこないままになっている。


 これだけ(医師不足が)激しくなれば、責任はお宅ら(医師)の話ではないんですかと、お医者さんの。しかもお医者さんなんか「減らせ、減らせ、多すぎる」と言ったのはどなたでしたかという話も申し上げた。


 臨床研修医制度の見直しは改めて考え直さないといけないし、大学の医学部定員は過去最大級まで増やしたが、今からは間に合わない。目先のことをどうするか、医師不足を真摯(しんし)に受け止めないといけない。


毎日新聞 2008年11月20日 東京朝刊


 医師は「社会的常識がかなり欠落している人が多い」という麻生発言が、今朝の朝刊各紙で紹介されている。日本医師会や保険医団体連合会など各種医療団体からの反発が表面化している。本発言は、全国都道府県知事会議で行った医師確保に関する発言として飛び出した。その要旨を読んでみると、「社会的常識欠如」発言以上に問題がある部分が認められる。
 歴代の政権は「医療費亡国論」のもと、医療費抑制政策を推進してきた。中でも、医師が増えるとその分医療費増に結びつくとして、政府は医学部定員削減を推進した。1982年、93年、97年には、医師数抑制の閣議決定がなされ、段階的に医学部定員の削減を進めてきた。経過から明らかなように、医師不足問題で責任を負わなければいけないのは政府自身である。
 だが、今回の麻生発言では、自らの責任には全く触れられていない。医師不足を招いた責任はお宅ら医師にあるのではないかという部分を読むと、医療現場に責任を負わせ知らぬ顔を決め込もうとしているとしか思えない。
 様々な不祥事が報道されるたびに、トップの責任は何かと考える。会見にのぞむ社長らは、「私は知りませんでした。現場への指導が不十分なためにこのような事態を引き起こしてしまいました。誠に申し訳ありません。」などという発言を繰り返す。汚職事件が起こると、政治家は「私は全く感知しておりません。秘書が勝手にやったことです。」と判で押したような弁解をする。医療事故でも同様である。たまたま居合わした当事者たちが非難される中、院長らは平身低頭し謝罪するだけである。組織内処分がされ、とかげの尻尾きりをして終わる。
 報道陣の前で、殊勝な面持ちで謝罪するのがトップの仕事ではない。根本原因が何かを明らかにし、再発を防ぎ、消費者・有権者・患者らの信頼を取り戻す、その陣頭指揮に立つのが仕事である。個人の怠慢が原因なら当事者を処分をすれば良い。しかし、システムエラーが問題なら、組織のあり方自身を刷新しなければならない。
 麻生首相は、自らが日本のトップにいるという自覚に乏しいことを衆目に晒した。「医師不足」、「医療崩壊」といった課題に対し、真剣に取り組む気持ちが全くないことを示した。現場に責任を負わせ知らぬ顔をした組織は、かえって強い非難を浴び、よりいっそう深い傷を負う。二階経産相麻生首相と無責任な発言が繰り返されている。現政権は発足わずか2ヶ月にして末期症状を示している。