窒息事故予防のためには、幼小児・高齢者などハイリスク群の同定必要

 窒息事故に関し、3件の報道が相次いだ。


 まず、時事通信「早食いあった」校長謝罪=小6パン窒息死より。

2008年10月25日00時32分
●「早食いあった」校長謝罪=小6パン窒息死


 千葉県船橋市立峰台小学校で17日昼、同校6年の男子児童(12)が給食のパンを詰まらせ窒息死した事故で、同校の末永啓二校長らは24日夜、記者会見を開き、「早食いを誘発する状況があった。申し訳ないことをした」と謝罪した。
 同校によると、23日夜に教頭らが亡くなった男児の両親に経緯の説明に訪れた。校長が事故発覚後に「早食い」はなかったとした発言について、遺族から訂正と謝罪の要望があったという。
 校長らは会見で、同日までに把握した事実関係を説明。死亡した男児は給食中の会話で友人から「以前にパンを3秒で食べたことある」などと聞かされ、「へぇー、それなら」と答え、一口食べた直径約10センチの丸いはちみつパンを二つに割って一気にほおばり、のどを詰まらせたという。
  同校職員や救急隊が気道確保や背中をたたくなど救命措置を施し、病院に搬送されたが、17日午後6時15分、死亡が確認された。
 同校は24日夜、保護者説明会を開き、経緯の説明をすると共に、今後児童の心のケアや給食指導の徹底、教職員に救急法研修会を実施するなどと話した。(了)


 続いて、TBS NEWS!、こんにゃくゼリー、新たに2人死亡より。なお、元となった資料は、東京消防庁平成20年10月21日 こんにゃく入りゼリーに係る救急事故についてである。

こんにゃくゼリー、新たに2人死亡


 窒息死する人が出るなどの被害が出て、問題となっているこんにゃく入りゼリー。警視庁によりますと、東京都内で、こんにゃく入りゼリーを食べた高齢者2人が、喉(のど)に詰まらせて相次いで死亡していたことが新たにわかりました。


 「救急車が来た時にはもう心肺停止だった」(妻を亡くした男性)
(Q.声をかけても反応なかった?)
 「全然」(妻を亡くした男性)


 男性の妻、山田伊久枝さん(75)は、今年4月、世田谷区の自宅でこんにゃく入りゼリーを食べた際に喉に詰まらせ、病院に運ばれましたが窒息のため脳死状態となり、8日後に死亡しました。


 「(妻が、こんにゃく入りゼリーを喉に詰まらせ)『大丈夫か、大丈夫か』って5回背中を叩いて、そのうちにガクッとなった」(亡くなった山田伊久枝さんの夫)


 一方、東京・杉並区の高齢者施設でも今年5月、87歳の女性が昼食で、こんにゃく入りゼリーを食べた後、倒れているのが見つかり、翌日、死亡しました。


 こんにゃく入りゼリーをめぐっては各地で被害が出ていて、メーカーが製造を中止するなど問題となっています。国民生活センターは、これまでに死亡事故が17件起きていることを明らかにして注意を呼びかけていますが、今回の2件は、その中に含まれていませんでした。(23日17:23)

 最後に、MSN産経ニュース「もち」より恐い「パン」 135人詰まらせ、8人死亡より。

「もち」より恐い「パン」 135人詰まらせ、8人死亡
2008.10.24 09:43


 東京消防庁は23日、平成18〜19年の2年間で、都内に住む135人がパンをのどに詰まらせる事故を起こしていたことを明らかにした。このうち8人が死亡、42人が生命に危険のある「重症」以上の症状だった。千葉県船橋市の小学6年の男児(12)が給食のパンをのどに詰まらせて窒息死しており、同庁は注意を呼びかけている。 同庁によると、食べ物をのどに詰まらせた事故は全体で2443人。このうち71人が死亡。うち「ご飯・すし」が17人と最も多く、パンは「もち」の7人を上回り2番目だった。
 パンを詰まらせた135人のうち、70歳以上が87人、2歳以下が13人。死亡者も60代、70代がそれぞれ2人、90代が4人となっており、咀嚼(そしゃく)の弱い高齢者や乳幼児の事故が目立つという。


 小6児童の窒息事故は、早食いがいかに危険かを如実に示した。
 新たに判明したこんにゃくゼリー窒息事故は、高齢者には危険と表示されている食物を提供したことに問題がある。特に、なにゆえに高齢者施設で昼食にこんにゃくゼリーを出したのか、理解に苦しむ。
 東京消防庁の発表を受け、もちよりパンの方がこわい、と報道することは誤っている。毎日の食材とたまにしか食べないものを混同している。最後の一文、「咀嚼(そしゃく)の弱い高齢者や乳幼児の事故が目立つ」ということを強調すべきである。


 ミニカップ入りこんにゃくゼリーによる窒息事故後、マンナンライフが同製品の販売を自粛している。このことに関し、賛否両論が沸き起こっている。窒息事故が報道されるたび、食材の安全性に焦点を当てた報道がなされる。しかし、本当に強調すべきなのは、食べ物なのか?子供や高齢者、および嚥下機能に支障をきたす脳卒中後遺症者など、窒息事故・誤嚥事故を起こしやすい群を同定し、集中的に対策をとることが最も重要ではないか?


 早食い競争で、男児が窒息死?というエントリーで述べたことを、補強して以下に提示する。


 人間ののど(咽頭)は、空気と食物が交互に通る交差点のようなところである。食物がのど(咽頭)を通る時、のど仏(喉頭)が上がり、喉頭蓋が倒れ気道の閉鎖を行う。同時に、のどちんこ(軟口蓋)が上がり、鼻(鼻腔)への通り道を閉鎖する。舌の後ろ側(奥舌)も上がり、口の中(口腔)へも戻らないようにする。のど(咽頭)が閉じられた部屋(閉鎖腔)となった時、嚥下反射が起こり、食道の入り口がゆるみ、食べ物が食道から胃へと運ばれていく。この絶妙な嚥下機能が障害された時、誤嚥や窒息が生じる。嚥下障害とは、空気と食物が交互に通る交差点の信号が故障した状態と考えれば良い。


 幼小児は摂食嚥下機能が未熟である。また、経験も浅く、安全な食物が何であるか習得していない。一方、高齢者は加齢に伴い、嚥下機能が衰える。歯牙を失い、咀嚼能力も低下する。また、脳卒中後遺症など神経疾患では、嚥下障害を生ずることは稀ではない。
 子供や高齢者、および嚥下機能に支障をきたす脳卒中後遺症者など、窒息事故・誤嚥事故を起こしやすい群を同定し、集中的に対策をとることが重要である。窒息を起こしやすい食物を避けるようにすること、調理方法の工夫をすること、1人で食べさせないことなどが求められる。例えば、幼小児では、飴玉やこんにゃくゼリーを食べさせないようにすることを保護者は認識する必要がある。


 早食いも危険である。人間は雑食である。あらゆる食物は、そのまま食べると窒息の原因となりうる。安全に嚥下できる食塊とは、咀嚼をしながらつくられていくもので、ある一定の粘性と弾性がある。嚥下障害の方に出す嚥下食とは、あらかじめ、嚥下しやすいように調整された食事のことを指す。早食いというのは、咀嚼を十分行わずに飲み込むことに他ならない危険な行為である。たとえて言えば、交差点にスピード違反のまま飛び込む行為に似ている。少しずつ、よく噛んで食べる、という当たり前のことを守ることが、窒息事故予防にとって重要である。