福岡市の高齢者施設、介護事故での死亡率35.4%

 西日本新聞、WORD BOX、介護保険3施設、プリンで窒息 車いすで転倒 介護事故 5年で82件 福岡市の高齢者施設 死亡は29件 人手不足など背景 (2008年6月19日掲載)より。

プリンで窒息 車いすで転倒 介護事故 5年で82件 福岡市の高齢者施設 死亡は29件 人手不足など背景
(2008年6月19日掲載)


 福岡市内の介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設介護療養型医療施設)におけるお年寄りの事故が、過去5年間で82件に上ることが明らかになった。うち29件は転倒・転落や、物を誤って飲み込み窒息することなどにより死に至っていた。施設側の過失の有無を含めて原因はそれぞれ異なるが、慢性的な人手不足なども背景にあるようだ。
 2003年4月から08年3月までに、介護保険3施設(08年3月時点で99カ所)が市に提出した事故報告書を西日本新聞が情報公開請求し集計した。厚生労働省介護保険施設で事故が起きた場合、行政への報告を義務付けている。
 集計によると、お年寄りが見舞われた事故のうち、居室や歩行中などの転倒・転落が34件と最も多く全体の41%を占めた。身体の衰えによる不可抗力もあったが、車いすのひじ置きが固定されていなかったり、移動中に車輪が外れて転倒したりと、施設側が注意を払っておけば防げた例もあった。死亡のほか骨折も多かった。
 転倒・転落により亡くなった7件のうち、中央区特別養護老人ホームで昨年起きた入浴時のストレッチャーからの転落死事故では、福岡県警が施設関係者を医師法違反と業務上過失致死容疑で書類送検している。
 食べ物や異物が気道に入ったり、食べ物以外を誤って飲み込んだりする誤嚥(ごえん)・誤飲は19件。プリンがのどに詰まって心肺停止に陥り、搬送先の病院で翌日亡くなった人や、職員から別の人の入れ歯を間違って渡され、サイズが合わずに飲み込んでしまった人もいた。
 このほか、浮輪をつけて入浴中、職員が目を離したすきに顔が湯に漬かり、ぐったりしているところを発見された人や、おむつに手を入れたことで職員から腕を頭上で拘束され、肩の関節を痛めた人もいた。「職員にたたかれた」との訴えもあった。
 報告書は、03年度の3件に対し07年度は30件と増加。市監査指導課は「事故が増えたというよりも、県が04年に報告書の要領を通知したことで意識が高まったのではないか」という。
 日本赤十字九州国際看護大の大塚邦子教授(成人・老人看護学)は「全国的にも同じで、実態はもっと多いと思う。高齢者は体力や判断力が弱くなっている上に、身体拘束廃止の流れもあり、職員がマンツーマンで付いても防げない事故はある。人手と介護報酬を増やすことが欠かせない」と指摘している。


 貴重なデータである。福岡市だけが特別介護事故が多い訳ではない。事故報告書を義務づけたため、データが収集されたと判断する。ただし、医療事故の場合と比べ、次のような特徴を認める。

  • 介護事故は5年間で82件、うち死亡事故は29件: 要介護者が多い割には介護事故は少ない。一方、事故に占める死亡率が29/82=35.4%ときわめて高い。転倒事故でも擦過傷・打撲などの軽症例は含まれていない可能性が高い。ハインリッヒの法則(重大事故1件の影に軽傷例29件)という観点からみると、実際の事故はこの10倍はあると予想する。
  • 転倒・転落34件中、死亡事故が7件を占める: 死亡率は20.6%となり、異常な高率となっている。転倒・転落事故報告も軽症例は収集されていないと推測する。
  • 誤嚥・誤飲は19件であり、転倒・転落事例とあわせ53件(64.6%)を占める: 介護施設において、誤嚥・誤飲事故と転倒・転落事故が最重要課題であることを示している。


 介護施設内での事故予防対策を立てる上で、些細な事例でも事故例を収集することが求められる。その上で、結果を分析し公表していく過程が欠かせない。リスク管理強化は、介護の質を高めることに通じる重要な課題である。
 昨今の状況を考えると、介護事故で刑事責任を問われることが多くなっている。低収入だがリスクは高い仕事に希望を失い、介護職員が現場から立ち去っていく。介護崩壊を防ぐためには、待遇の改善とともに、個人責任を問わないシステムづくりも求められる。