ストレッチャーからの転落で死亡事故発生

 毎日新聞転落事故:介護入浴中の96歳女性死亡 福岡の施設より。

転落事故:介護入浴中の96歳女性死亡 福岡の施設


 福岡県大川市介護施設「あおぎり荘」(椛(かば)雅博施設長)で17日、同市の96歳女性が入浴用ストレッチャーから約70センチ下の床に落ち、2時間半後に死亡していたと、県警大川署が18日、発表した。事故当時、女性の体をふくために、ストレッチャーに備わっている転落防止用ベルトを外していたという。同署が施設関係者から事情を聴き、詳しい原因を調べている。


 同署と椛施設長によると、17日午後2時40分ごろ、施設内の浴室で、ヘルパー2人が入浴を終えた女性を、ストレッチャーに乗せたまま体をふいていたところ、床に落ちたという。体が汚れているのを見つけ、シャワーを取ろうとした瞬間に転落したらしい。事故直前にうち1人が浴室外に出ていたという。女性の死因は腰などの打撲による出血性ショックとみられる。


 介護入浴中に高齢者がストレッチャーから転落し死亡した事故は、01年8月に北九州市門司区の病院でもあり、当時89歳の女性が死亡、介護士2人が業務上過失致死容疑で書類送検された。


 椛施設長は毎日新聞の取材に対し「ヘルパーが女性から目を離してしまった。責任は重々感じています。ご本人、ご遺族に申し訳ない」と話している。【斎藤良太】


毎日新聞 2008年10月19日 19時09分


 調べてみると、ストレッチャーからの転落に伴う死亡事故が、あちこちの介護施設で起こっている。
  【連載】崩壊する介護(1) 制度の根幹揺るがす現状  [福岡市政ニュース]では、2007年8月に福岡の特養で起きた事故について、次のように報じている。

 昨年12月、マスコミ各社がある事件について一斉に報道した。同年8月、福岡市中央区特別養護老人ホーム(以下、特養)「L」で施設側の不注意により入所者がストレッチャーから転落し頭を強打、その後搬送された関連病院「S」で死亡。搬送先のS病院では、副院長の指示で、死因の種類が「転落死」でありながら「病死及び自然死」とする虚偽の死亡診断書を作成、さらに、医師法で義務付けられた異常死の警察への届け出(24時間以内)を怠っていた。福岡県警は12月になって担当医師と副院長を虚偽診断書等作成と医師法違反容疑で書類送検、特養の職員2名も業務上過失致死の疑いで書類送検した、というもの。


 続いて、日職災医誌,52:177─180,2004、介護中の事故が関与した死亡例の検討より。

【症例2】脳内出血後遺症で,植物状態となった67歳の女性が特別養護老人ホームに入所していた.入浴介護を受ける際に高さ80cmのストレッチャーから転落し,頭部を床に強打した.事故後の診察で,脳に外傷性変化を認めなかったが,事故から約10時間後に突然死亡した.司法解剖で,左側頭部の頭皮下血腫および頭蓋骨骨折といった外傷性変化はあるが,死因は虚血性心不全と診断された.


 3件の事故報告をみると、以下の点で類似している。

  • 重度要介護状態が転落事故にあっている。
  • ストレッチャーからの転落=高所からの転落が死亡事故に結びついている。
  • 介護者が目を離した隙に生じている。


 転倒・転落事故は、骨折を生じ、要介護状態を悪化させる。医療機関介護施設いずれにおいても、転倒・転落事故は多く、リスク管理上、重要性が高い。
 一般に、転倒した要介護者が全て重篤な外傷を負うわけではない。車椅子からずり落ちた場合などは骨折に結びつかない場合が多い。一方、立位時・歩行時などに転ぶと、大腿骨頚部骨折を生じやすい。
 高所からの転落で、頭部外傷などを生じると、致命的な経過をたどることがある。ベッドを高くし、さらに、四方に柵をつけていた場合、柵を乗り越える行為は重大事故に結びつく。階段室へのアクセスが容易だと、階段から転げ落ちる危険性が増える。事故予防としては、低床型電動ベッドの導入、階段室への侵入防止柵の設置などが必要となる。今回のストレッチャーからの転落事故も、同様の位置づけで対応することが求められる。
 今回の事故は、ストレッチャーを使用し、入浴介助を行っているあらゆる施設で起こりうる。
防止策はただひとつ、複数の介護者を両側に配置し、かつ移乗時以外は転倒防止用のベルトや柵をはずさないことだけである。