- 作者: 大山典宏
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2008/01/16
- メディア: 新書
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本書を読んで気になった部分、生活保護ケースワーカーでも「立ち去り型サボタージュ」常態化という指摘(106〜110ページ)について、大要を紹介する。
生活保護の現場では、声高に問題点を訴える当事者や支援者の声を真摯に受け止めるケースワーカーの不在 − 支援者の空洞化が進んでいる。
東京都では、ケースワーカー1人あたりの受け持ちケース数は、55.1世帯(1992年度)から83.5世帯(2002年度)に増えている。特に市部では、標準数をはるかに超える97.9世帯となっている。*1
ケースワーカーの経験年数を見ると、初めて福祉事務所に配属になった「経験年数1年未満の者」が約1/4を占めている。ほとんど経験のないまま孤立無援の状態で放り出されている。
市民の生活保護行政に向ける視線が厳しさを増す中、市町村や都道府県の職員は、「絶対に生活保護の仕事だけはしたくない」と思う。現場を担うべきベテラン公務員が逃げ出し、あとには厳しい職場環境でうつ病に冒された病休者と、積み上がる仕事を片付けるだけで精一杯の若手職員だけが残される。
著者の大山典宏氏は、埼玉県志木市の生活保護ケースワーカーを経て、現在は埼玉県所沢市で児童相談所に勤務しながら、「生活保護110番」http://www.seiho110.org/というサイトを運営し情報発信をしている。
本書は、偏見の目にさらされがちな生活保護の実態をつぶさに紹介している。対象者の支援と生活保護受給者数の抑制という相反する課題にケースワーカー自身が苛まされ、壊れていく姿を示している。
世間の期待の大きさ、実際に労働する者の少なさ、クレームの多さ、社会保障削減のつけなど、医療現場と瓜二つであることに驚かされる。生活保護ケースワーカーの激務を初めて知り、同情を禁じえない。
*1:参照:「生活保護制度改善に向けた提言」(東京都試案)18ページ。