療養病床の医師を急性期病床へ再配置、厚労省官僚の目論み


 厚生労働省より、療養病床に関する新たな文書が出た。CBニュース、療養病床再編で医師不足解消?でも、次のような記載がされている。

 「医療費を抑制するため、高齢者らが長期入院する療養病床を削減する計画」ともいわれる療養病床の再編について、厚生労働省は9月9日、「療養病床の再構成に関する概要と基本的なQ&A」を発表した。「療養病床の再編成はベッドの削減ではない」とあらためて理解を求めているほか、療養病床の再編と医師不足との関連性について言及している点が注目される。

 療養病床を再編する理由については、「医療資源の再配分」と「社会的入院の解消」の2つを挙げ、それぞれの説明の中で、医師不足との関連性を指摘。「医療資源の再配分」では、「医師不足が指摘される中、療養病床の再編成によりマンパワーも含め医療資源の急性期病床への再配分を図る必要があります」としている。
 また、「社会的入院の解消」では、「医師不足が指摘される中で医療をそれほど必要としない方が貴重な医師等医療スタッフを専有している」とした。

 「療養病床の再構成」に関する概要と基本的なQ&A全体版(PDF:63KB)9月9日より、該当部分を引用する。

 主に次のような課題を解決するため、療養病床の再編成が必要になっています。


(1)医療資源の再配分
 現在の療養病床は、医療機関で対応するべき方と介護保険施設等による対応がより相応しい方が混在しており、機能やサービスの分化が進んでいないため、利用者の状態に応じ、適切な所で適切なサービスが提供されているとは言い難いケースが少なくありません。
 我が国の人口当たり病床数は欧米の3倍もある一方で、病床当たり医師数は欧米の3分の1となっており、医療資源が広く薄く配置されていることに加え、医療(病院)が福祉(介護施設等)の肩代わりをしており、今のままでは超高齢化社会の病院医療、特に集中的に医療資源を必要とする急性期の医療が立ち行かなくなる恐れがあります。
 医師不足が指摘される中、療養病床の再編成によりマンパワーも含め医療資源の急性期病床への再配分を図る必要があります。


(2)社会的入院の解消
 老人医療費が無料になった昭和48年以降、家庭や福祉施設に受け皿がないことなどにより、病院への入院を選択するという、いわゆる「社会的入院」も問題となっています。いわゆる「社会的入院」の方が病床を占めるということは、医療が必要な方が入院できなくなっていることや、医師不足が指摘される中で医療をそれほど必要としない方が貴重な医師等医療スタッフを専有していることを意味します。
 また、いわゆる「社会的入院」は、入院されているご本人にとっても必要なサービスとは異なるサービスを受けざるをえないという状況を生んでおり、ご本人の生活の質の向上のためにも、より適切な施設において適切なサービスが受けられるようにすることが求められます。


 2000年、介護保険が施行され、介護療養病床が3種の長期療養施設の1つとして整備された。同年、第4次医療法改定が行われ、日本の病床は、一般病床と療養病床に大別された。2003年8月を期限とした病床種別の届出に伴い、医療施設の類型化が促進された。
 ところが、小泉内閣の進める医療構造改革のもと、2006年、医療保険の療養病床入院基本料の引き下げと2011年度末までの介護療養病床廃止が決まった。厚労省の政策誘導に従って療養病床整備を進めてきた医療機関は、梯子をはずされた。
 療養病床を再編する理由として、「医療費適正化」のためだと、厚労省は繰り返し述べている。しかし、歴史的経過をたどれば、療養病床をめぐる政策が一貫していないことが分かる。官僚は政策変更を合理化するためには、どんな理屈でもつける。官僚は絶対過ちを認めない。
 今回、療養病床再編の理由として、療養病床の医師を急性期病床へ再配置するということを述べている。そもそも、厚労省はついこの間まで、「日本の医師は不足していない、偏在しているだけだ。」と主張していた。それが、風向きが変わったとたん、医師不足をも療養病床を減らす口実としている。


 CBニュース、介護療養型病床は財政再建の「いけにえ」かでは、次のような宮島老健局長の発言を紹介している。

清水紘・日本慢性期医療協会副会長


 これが7月の人事で新しく就任した、今の厚労省老健局長、宮島俊彦氏の就任時記者会見の発言だ。
「療養病床の医師は1万人いるが、なぜ子どもや妊産婦を診てくれないのか」
「療養病床では病状が急変すると一般病床に送るという。それで病院なのか。病院という名前はやめてほしい」
 これを聞いてどう思うか、判断は皆さんに任せたい。
 そして、療養病床削減という重要なことがたった約1週間で決められたという事実を皆さんにはよく覚えておいてもらいたい。


 高齢要介護高齢者を主に診る療養病床医師が、小児科や産婦人科患者を診ないことを非難するような人物が、厚労省の政策を作っている。医療スタッフが少なく低額の包括制医療を行っている療養病床で、人手もお金もかかる急性期医療を行えという感覚が全てを物語る。