大規模健康保険組合の解散続く?

 大規模健康保険組合の解散が報道された。朝日新聞高齢者医療の拠出重荷、健保を解散 西濃運輸、政管へより。

高齢者医療の拠出重荷、健保を解散 西濃運輸、政管へ
2008年8月21日


 トラック陸運業界大手セイノーホールディングス(本社・岐阜県大垣市)のグループ企業の健康保険組合が今月解散したことがわかった。4月の高齢者医療制度の改革で負担金が大幅に増えて事業継続が困難になった。加入者は5万人を超え、倒産以外で大規模な健保組合の解散は極めて異例だ。


 加入者は、国が運営し、医療給付費の13%を補助している政府管掌健康保険政管健保)に移った。高齢者医療の負担金が増え、今年度は約1500ある健保組合の9割が赤字になる見通し。今回の医療制度改革は、国の負担軽減が狙いの一つだが、政管健保への移行が広がれば国庫負担増につながる。


 解散したのは西濃運輸健保組合で、グループ31社の従業員と扶養家族計約5万7千人が加入していた。グループ中核の西濃運輸によると、西濃健保が07年度、75歳以上が対象の老人保健制度と、サラリーマンOBのための退職者医療制度に支出したのは計35億8700万円。


 08年度は、経過的に残った両制度への負担金(計11億6200万円)に、65〜74歳の前期高齢者納付金(25億2500万円)、75歳以上の後期高齢者支援金(21億1千万円)が加わった。高齢者関連は総額58億円と前年度比で62%増え、加入者から集める保険料の6割に相当する。


 この負担増を賄うには、保険料率を月収の8.1%から10%以上に引き上げることが必要だ。財政的に立ちゆかなくなり、今年3月に解散を決めて厚労相に解散認可を求めた。担当者は「65〜74歳の前期高齢者納付金の負担が重すぎた。積立金を取り崩しても赤字。健保組合継続の意義も薄らいだ」としている。


 赤字組合数の割合は02年度に8割に達した後、負担金を抑制する制度改正で3〜4割台に減少。しかし、昨年度は7割近くに上昇し、今年度は9割近くになる見通し。解散組合数はすでに、昨年度の12に並んだ。


 国が進める医療制度改革は、大企業の従業員が入る健保組合の負担で、国が多額の負担金を投入する市町村国保と、中小企業の従業員が入る政管健保の財政負担を抑えるのが狙いだ。今後、負担に耐えかねた健保組合の解散が続けば、国の狙い通りに進まない可能性がある。(高岡喜良、浜田陽太郎)


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 政府管掌健康保険 社会保険庁が運営する医療保険で、中小企業の従業員と扶養家族約3600万人が加入し、4兆3千億円の給付を受ける。給付費の13%、後期高齢者支援金の16.4%を国が負担する。07年度決算は1350億円の赤字。健保組合から政管健保(保険料率8.2%)に移ると保険料率が上がるなどデメリットが生じる場合が多い。


 組合管掌健康保険組合の負担が増大している問題について、当ブログでもたびたび言及してきた。


 健康保険組合赤字の理由は、次の3つにまとめられる。

  • 国庫負担の減少
  • 制度変更に伴う健保組合からの拠出金急増
  • 正規雇用労働者減少と賃金据え置きによる保険料収入減


 政府は、1984年に老人保健制度が新設されたことを理由に、それまで医療費総額の約45%を支出していた国庫負担率を約38.5%に引き下げた。また、1992年、政管健保への国の補助金の割合が、それまでの16.4%から13%に引き下げられた。これらの結果、医療費に占める国庫負担率は、1980年度の30.4%から2005年には25.1%に減少した。
 国庫負担減少の一方、健保組合からの老人医療等への拠出金割合が増加した。特に、後期高齢者医療制度創設に伴い、健康保険組合は75歳未満の加入者数に合わせて後期高齢者支援金を拠出することになった。また、国民健康保険の負担軽減を目的に各医療保険間の調整がなされ、健保組合から65〜74歳の前期高齢者納付金が支払われることになった。


 「75歳未満の加入者数に合わせて後期高齢者支援金を拠出」というルールは、規模の大きい健保組合を直撃した。非正規雇用労働者は、企業の保険組合には加入していない。このため、正規雇用を守っている企業ほど健康保険料負担が重くなるという気の毒な結果となっている。さらに皮肉なことだが、約40万人の派遣社員が加入する派遣健保では、保険料率が6.1%から7.6%に約25%も引き上げられ、低収入の派遣労働者負担が増大してしまった(参照:人材派遣健康保険組合の保険料が大幅に引き上がります
 今後も、医療費国庫負担削減、健保組合負担増加が続くと、西濃運輸のような大規模健保ほど政府管掌健康保険に移行しようとするインセンティブが働く。公的医療費を減に小手先な対応を続けるほど、国の負担が増えかねないという逆説的な現象が生じている。