くも膜下出血の診断の難しさ

 当院内科では、毎週、外来カンファレンスを行っている。若手医師が経験した気になった症例を題材にしている。リハビリテーション科医師もできる限り参加するようにしている。


 「これまで経験したことのない突然発症の頭痛症例」についての検討があった。頭部CTでは異常なかったが、くも膜下出血が否定できないと判断し、脳卒中専門病院に紹介したところ、MRAで動脈瘤を指摘され、髄液穿刺にて確定診断がついた。カンファレンスであらためて頭部CTを見たが、全く異常がない。病歴聴取の重要性を実感した。


 くも膜下出血診断の実態について日本脳神経外科学会が記者会見を行ったところ、マスコミが次のような報道をした。毎日新聞くも膜下出血:初診6.7%見落とす 学会調査より。

くも膜下出血:初診6.7%見落とす 学会調査


 くも膜下出血の患者のうち、脳神経外科医以外が初診した6.7%が風邪などと診断され、事実上、病気を見落とされていたことが7日、日本脳神経外科学会の調査で分かった。患者が軽い頭痛しか訴えなかったことなどから、くも膜下出血を発見できるCT(コンピューター断層撮影)を実施していなかった。同学会は「軽い頭痛の患者全員にCTを行うわけにはいかない。現代医療の限界とも言える」としている。


 同学会学術委員会の嘉山孝正・山形大教授らが、宮城県山形県の2病院で、脳神経外科のカルテ全491例を調査した。


 宮城県は07年1月〜08年5月が対象。198例中37例が脳神経外科医以外で初診を受け、うち10例(5.1%)が風邪、高血圧、片頭痛などと診断されてCTを受けず見落とされた。10例すべてが再発し2例が死亡した。


 山形県は96〜05年が対象。専門医以外の初診は293例中48例で、23例(7.8%)が見落とされ、すべてが再発し2例が死亡した。


 見落とし計33例のうち17例は、くも膜下出血の常識に反して発症時に軽い頭痛しか起きておらず、委員会は「専門医以外では他の頭痛と区別できない」と指摘。他の16例も「診断が難しい例がある」とした。山形県では脳神経外科医でも見落とした軽度頭痛の患者が1例あった。


 米国では5〜12%の見落とし率という報告がある。嘉山教授は「くも膜下出血の診断は難しく、完ぺきな診断はできない。現代の医療でも見落としは不可避という現実を周知し、脳ドックの普及など社会全体で対策を考えるべきだと思う」と話している。【奥野敦史】

 報道後、日本脳神経外科学会のホームページにアクセスした。本来、診断の限界を一般の方に分かって欲しいという意図で発表したことが確認できた。初期診断の困難さを指摘した欧米の論文も添付されていた。若手医師の参考になると考え、学会ホームページを探したが、残念ながら、「お知らせ」からは消去され、次のような通知だけが掲載されていた。社団法人 日本脳神経外科学会 より、2008年7月15日「脳卒中における新知見に関する発表について」。

脳卒中における新知見に関する発表について

(社)日本脳神経外科学会は平成20年7月7日(月)、厚生労働省において「脳卒中における新知見に関する学会発表」と題して、くも膜下出血の診断の困難性について記者発表を行ないました。


 本件はその後、一部のメディアでも取り上げていただいたとおりですが、重要な点を再確認させていただきます。それは、軽度の頭痛のなかには「くも膜下出血を疑って検査・診断する」ことが困難な場合が少なからずあるという、今日の医療の限界が改めて確認された点です。これは、くも膜下出血が「見逃された」、「見落とされた」、というのとは異なった意味を持ちます。
 また、今回は「専門医が最終的に診断することができたくも膜下出血例」だけを対象として調査したものですが、実地診療のなかでは脳神経外科医であってもくも膜下出血を疑うことが困難な場合や、CTを行なったとしても確認できない軽度のくも膜下出血もあり、専門医であればすべて診断できるものでもありません。進歩の著しい現代医療にも限界があるということもあわせてご理解いただきたいと思います。
 最後に、このような診断の限界については欧米の一流施設からも報告されており、本邦に限ったものではないことを申し添えさせていただきます。


 折角の貴重な資料が、ホームページ上からなくなったことを残念に思っていたところ、新小児科医のつぶやき、学会のお墨付きのコメント欄に、記者発表資料のアドレスhttp://jns.umin.ac.jp/080707.pdfが残されていたことを発見した。若手医師に資料を渡し、なんとか面目を保つことができた。忘れないように、紹介されている論文のアドレスを記載する。