ジニ係数と相対的貧困率

 格差問題を語る時に、重要な2つの用語がある。ジニ係数相対的貧困率である。


ジニ係数
 厚労省平成17年所得再分配調査報告書より、ジニ係数の説明を引用する。

ローレンツ曲線、ジニ係数


(1) ローレンツ曲線
 所得分配・所得再分配の状況は、世帯を所得の低い順に並べ、世帯数の累積比率を横軸に、所得額の累積比率を縦軸にとって描いたローレンツ曲線によっても観察できる。所得が完全に均等に分配されていれば、ローレンツ曲線は、原点を通る傾斜45度の直線(均等分布線)に一致し、不均等であればあるほどその直線から遠ざかる。一世帯が所得を独占し、他の世帯の所得がゼロである完全不均等の場合には、ローレンツ曲線はABC線になる。(下図参照)

(2) ジニ係数
 ジニ係数は、ローレンツ曲線と均等分布線とで囲まれた面積の均等分布線より下の三角形の面積に対する比率によって、分配の均等度を表わしたものである。したがって、ジニ係数は0から1までの値をとり、0に近いほど分布が均等、1に近いほど不均等ということになる。



相対的貧困率
 赤旗OECD発表の貧困率とは ?が分かりやすい説明をしている。引用する。

OECD発表の貧困率とは ?


 〈問い〉 「格差の広がり」を否定する小泉首相と対比して、第24回党大会決議の「社会的格差の新たな広がり」の指摘は重要だと思います。ところで、OECD調査の「貧困率」とその説明にある「等価可処分所得」「所得の中央値」という言葉がよくわかりません。(大阪・一読者)


 〈答え〉 貧困率の計算方法はいろいろありますが、OECD経済協力開発機構)は、「等価可処分所得の中央値の半分の金額未満の所得しかない人口が全人口に占める比率」を「相対的貧困率」と定義して、国際比較を発表しています。


 日本の数字は厚生労働省が毎年おこなっている「国民生活基礎調査」のデータから計算しています。


 「可処分所得」とは、給与・事業所得・年金・各種社会保障手当などの年間所得から、所得税・住民税・社会保険料・固定資産税を差し引いたものです。


 「等価可処分所得」とは、世帯を構成する各個人の生活水準やその格差をみるために、世帯単位で集計した可処分所得をもとに、構成員の生活水準を表すように調整したものです(統計上、世帯全体の可処分所得を世帯の人数の平方根で割って算出)。


 「中央値」とは、全人口を等価可処分所得順に並べた時に中央に位置する人の等価可処分所得です(平均値とは異なり、一般的には平均値より低い値になります)。


 2000年の家計所得をもとにした国民生活基礎調査(01年実施)のデータで計算すると、等価可処分所得の中央値は約274万円であり、この半分の額である約137万円に満たない人の割合が貧困率となります。


 05年発行のOECDの社会指標に関する報告書によれば、00年のデータで、OECD25カ国の貧困率の平均値は10・2%となっています。


 日本の貧困率は15・3%で、メキシコ(20・3%)、アメリカ(17%)、トルコ(15・9%)、アイルランド(15・4%)に次いで5位となっています。イギリス(11・4%)、ドイツ(9・8%)、フランス(7%)、スウェーデン(5・3%)などと比べて、高い値となっています。


 日本は、90年代なかばには13・7%であり、この間に貧困率が上昇しています。


 最新の国民生活基礎調査のデータ(02年所得)で計算すると、日本の貧困率は16・7%で、さらに上昇していることがわかります。


 なお、00年の日本の「貧困層」の上限となる実際の可処分所得は、単身世帯では137万円、2人世帯では194万円、3人世帯では238万円、4人世帯では274万円です。


 サラリーマン片働き世帯を仮定して、税・社会保険料込みの年収に換算すると、それぞれ、158万円、216万円、264万円、305万円となります(いずれも概算値)。(橋)〔2006・2・2(木)〕


 最後に、連合総研視点 日本の所得格差指数、貧困率は何故高いのかより。

視点


日本の所得格差指数、貧困率は何故高いのか


No197 2005年9月


 日本の所得格差指数(ジニ係数)はOECD25カ国(含むメキシコ、トルコ、ギリシャ)のうち第10位、貧困率の高さは第5位と高位グループに属し、また日本のこれら指数は90年代後半に増大している。2005年2月公表の 「OECD諸国における所得分配と貧困」 と題した「OECD ワーキング・レポート22」(OECD Social,Employment and Migration Working Paper 22. www.oecd.org/els/workingpapers)は以上のような興味深い国際比較分析を示している。


 日本の所得格差は、当初所得(税・社会保険料控除前、社会保障給付加算前の所得)のジニ係数が80年代初頭から着実に上昇しており、税控除・社会保障給付を含む「再分配所得」のジニ係数についても変動しつつも上昇傾向にあること(「所得再分配調査」(厚生労働省:最新年発表04年6月)はよく知られている。そしてこの上昇傾向は、人口の高齢化による高齢者世帯の増加や単独世帯の増加などの要因が大きいとされてきた。今回のOECD発表「ワーキング・レポート」は、日本を含むOECD諸国のジニ係数相対貧困率について国際比較を行なっているが、そのなかで日本の所得格差について新たな特色を映し出しており、以下にその論点を紹介したい。


 「レポート」は、OECD各国の世帯収入調査(日本は「国民生活基礎調査」)から個人ベースの等価可処分所得(所帯可処分所得を世帯人数の平方根で除して各世帯員に割付たもの)を算出し、このデータをもとにジニ係数(ゼロと1の間の値でその値が大きいほど格差が大きいことを示す)、および相対貧困率を計算してその水準と時系列トレンドの国際比較を行なっている。


 まず、等価可処分所得によるジニ係数(以下:100倍した%表示)の2000年値を紹介しよう。この係数ではメキシコ(46.7%)、トルコ(43.9%)が例外的に飛びぬけて高く、次いで米国(35.7%)、イタリー(34.7%)、ニュージーランド(33.7%)、英国(32.6%)などが高位グループを形成し、日本(31.4%)もこのグループに分類される。一方、ジニ係数が低い国(27%以下)は、デンマークスウェーデンなどノルデック4カ国である。中位水準(27%〜30.5%)グループは、ベルギー、フランス、ドイツなどのEU諸国とカナダ、オーストラリアなどとなっている。


 所得の第9十分位(上から10%位)の第1十分位(下から10%位)に対する倍率も試算されている。日本のこの倍率は4.9倍であり、メキシコ(9.3)、トルコ(6・5)、米国(5.4)、ポルトガル(5.0)に続く第5位となっている(24カ国の単純平均4.2)。


 OECD諸国の可処分所得ジニ係数は、80年代半ばから90年代半ばにかけて25か国中の17カ国が拡大傾向を示し、この期間には単純平均で約6%の増大であった。その後90年代半ばから2000年においては、係数不変が10カ国、やや増大が9カ国で計算可能20カ国の平均では1%増で、近年には所得格差は安定しつつあるとしている。しかし、そのなかで日本のジニ係数は、英国とともに両期間とも増大傾向にある。


 次に貧困率を見ると、中位者の等価可処分所得の50%以下しかない者を貧困者と定義し、その貧困率を計算・分析している。日本のこの定義の貧困率は15.3%(人口比率)であり、メキシコ(20.3%)、米国(17.1%)、トルコ(15.9%)、アイルランド(15.4%)に次いで5位であり、24カ国平均10.4%からは5%ポイントも高い。年齢階層別の貧困率でも、日本のそれは全ての年齢階層で24カ国平均水準を上回っている。特に76歳以上(23.8%:8位)、66〜75歳(19.5%:7位)、51〜65歳(14.4%:3位)、18〜25歳(16.6%:4位)では5%ポイント以上も上回り、順位数では若年層および壮年層における貧困率の高さが目だつ。


 日本の可処分所得ジニ係数貧困率が高いのは何故であろうか。この「レポート」の分析から、以下二つの要因が指摘できる。その一つは、政府の社会保障給付(児童手当・失業給付・生活保護など現金給付のみを分析)および税による所得格差の縮小策が、日本は他のOECD諸国に比べ極めて貧弱なことである。税・社会保障給付を含めない市場所得のみによる貧困率と、税・社会保障給付を含めた可処分所得貧困率の2つを比較した分析(原図14)を行なっているが、それによれば、市場所得の貧困率では日本は、フランス,ドイツ、ベルギー、デンマーク、イギリス、アメリカなど主要な欧米諸国よりは低い。しかし可処分所得における貧困率では、日本は米国を除いた他の諸国の貧困率を大きく上回る結果となる。つまり、ヨーロッパ諸国は、税および社会保障給付によって低所得者可処分所得を引き上げ、貧困率を引き下げている。一方、日本はその再分配政策が極めて弱く、その結果として可処分所得貧困率は高くなっているのである。


 二つめの要因は、日本における広汎な低賃金(パート賃金)の存在がある。子どもがいる片親世帯の貧困率は、日本よりも米国、英国、カナダ、オーストラリアまた地中海諸国が高いが、働いている片親世帯の貧困率は、日本がトルコとともに60%以上で群を抜いて高い(米国でも約40%)。また、生産人口における貧困層においても日本は2人働き世帯所属の貧困者がその4割弱、1人働き世帯所属の者が3割強を占め、無業者は1割強である。一方他の先進国の貧困層では、2人働き、1人働き世帯所属の貧困者の比率は大幅に小さく、無業層が中心となっている(原図12)。さらに高齢者の貧困層においても、日本の場合には約半数が働いており、他の先進諸国には見られない特異な特色を見せている。すなわち、日本ではパートなど低賃金労働が広汎に存在し、この勤労層が低所得層を形成し貧困比率の高さを生み出している。


 このようにOECDの「レポート」の国際比較分析は、日本の所得格差の特色を描き出しており、その要因の一つは政府の所得再分配政策の貧弱さ、二つにはパート賃金など低賃金層の存在を示唆している。日本では、パート職と正規職との賃金格差が近年においては拡大し続けている。日本における所得格差問題の解決のためには、パート賃金の格差改善が極めて重要になっていると言わなければならない。  <三沢川>


 日本は総中流社会というのは、もはや幻想にすぎない。ジニ係数相対的貧困率、どちらの指標でみても、世界でも有数の格差社会となっている。税や社会保障による再分配政策の未熟さと低賃金問題が原因である。近年、社会保障費削減の流れの中で、生活保護母子加算老齢加算が縮小された。このため、より一層格差が進行していると予測する。
 格差社会をどう改めるか、このことが今後の政治の最大の課題である。