「恒産なければ恒心なし」

 東洋経済「舛添発言」で急転 派遣法改正の焦点 より。

「舛添発言」で急転 派遣法改正の焦点(1) - 08/06/27 | 12:25


 「日雇い派遣はもうやめる方向でやるべきではないか。かなり厳しい形で考え直すべきだ。秋には法律の形できちんと対応したい」。舛添要一厚生労働相は13日の閣議後会見で、秋の臨時国会日雇い派遣を原則禁止とする労働者派遣法改正案を提出する意向を示した。


 「ワーキングプアの温床」と批判される日雇い派遣。昨年から今年にかけて違法行為が常態化していたとして、業界大手のフルキャストグッドウィルが立て続けに事業停止命令を受けた。野党はもちろん、与党内でも公明党が早くから全面禁止を訴えており、今回の舛添発言によって「原則禁止」の流れがさらに強まったといえる。


細切れ契約や突然解雇 不安定な登録型派遣


 また、舛添発言は日雇い派遣にとどまるものではない。同日の会見で「普通のメーカーでやっている派遣が尋常かというと(そうではない)、私は常用雇用が普通だと思う」と言及。10日の閣議後会見でも、製造ラインの登録型派遣社員が起こした東京・秋葉原の無差別殺傷事件を受け、「特別な通訳など専門職以外は、やはり基本的には常用雇用というのは当たり前で、そういう原点に戻るべき。大きく政策転換しないといけない時期にきている」とした。これは派遣労働の大半を占める登録型派遣が内包する「不安定雇用」の問題を指摘したといえる。


 かつて労働者の供給事業は職業安定法でほぼ全面的に禁止されていた。だが、1985年に労働者派遣法が制定されると、その後は規制緩和の一途をたどった。対象業務の段階的な拡大を追い風に、派遣業界は急成長を遂げ、今や市場規模は5兆円を超す。その8割強が、仕事があるときだけ派遣会社に雇われて契約期間派遣先で働く登録型派遣だ。


 この登録型派遣ではトラブルが多発している。中でも社会問題化したのが、派遣法による縛りを嫌い、実態は派遣形態なのに請負を装って労働者を活用したとされた製造ラインの偽装請負だった。しかし、この手法が問題視された途端、厚労省によるお墨付きの下、多くの請負会社とユーザーは契約形態をすでに適法化されていた登録型派遣へ切り替えた。これで長年違法雇用を続けてきた事業者らの責任もすべてチャラとされた。切り替えで一時的に乗り切ったものの、今度は派遣期間制限(3年)が2009年3月から順次到来する。当時、請負から派遣へと転換を進めた各社は、再び期間制限のない請負への切り替えに躍起となっている。


 ただ、事業者間の請負契約期間しか雇用が保証されない登録型という点で、労働者の立場は派遣と何ら変わりがない。その雇用期間は「1カ月から3カ月の細切れ雇用がほとんど」(派遣ユニオンの関根秀一郎書記長)。また、「雇用契約期間内でも事業者間の派遣・請負契約が打ち切られたら、次の仕事の提供も解雇予告手当すらなく放り出されるケースも多い」(ガテン系連帯の小谷野毅事務局長)。


 派遣法では期間制限を超えて派遣労働者を使用する場合、ユーザーが直接雇用を申し入れる義務を規定している。だが、厚労省の調べによると、偽装請負の是正指導を受けたケースでユーザーが労働者を常用雇用(雇用期間の定めなし)したのは、わずか0・2%。ユーザーが望む柔軟な雇用調整=不安定雇用に対して、現行法は何ら歯止めをかけられていない。


焦点の臨時国会 法改正はどこまで


 一方、派遣法によらない形でユーザーを罰する新たな動きも出始めている。5日、警視庁保安課はグッドウィルの労働者を違法な二重派遣で受け入れていたとして、ユーザーの笹田組を職業安定法違反幇助(ほうじょ)容疑で書類送検した。職安法には派遣法とは異なりユーザーへの罰則規定があるからだ。また、松下PDPの偽装請負を告発した期間工が、5カ月での雇い止めは無効だと争っていた事件で、今年4月、大阪高裁は原告側の主張を全面的に認めた。判決は偽装請負を「脱法的な労働者供給契約として職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し強度の違法性を有し」と断罪した(最高裁で係属中)。


 政治の世界では目下、派遣法改正に関して議論が百出している(下表参照)。大阪高裁の判断と近いのが、派遣先「みなし雇用」の新設を掲げる共産党社民党の改正案や偽装直接雇用の防止を主張する国民新党の主張だ。この3党は対象業務を専門業務等に限定することを主張している。一方、民主党はユーザーへの刑事罰の新設や、雇用契約が2カ月以下の派遣の禁止を主張。抜本転換を求める3党と「政権を担っても提出できる法案」(幹部)とする民主党の主張との溝は深く、通常国会で野党からの改正案提出は見送られた。ただ、与党案が提示される「秋の臨時国会が派遣法改正の大きなヤマになる」(福島みずほ社民党党首)。


 日雇い派遣の禁止に加え、登録型派遣という不安定雇用のあり方がどれだけ議論され、法改正へと反映されるのか。臨時国会に向けて注目が集まる。


風間直樹 =週刊東洋経済 撮影:尾形文繁)


 厚生労働省:平成20年6月10日付大臣会見概要より、該当部分を示す。

(記者)
派遣の関連なのですけれども、派遣法の改正案、臨時国会に出される意向を先日示されました。ただ、労使間、与野党間、相当隔たりがあるわけなのですけれども、どういった姿勢で臨まれていこうとお考えになられていますか。


(大臣)
私は、やはり基本的に専門的な職種、一番分かりやすいのは、同時通訳さん、この前の新潟のG8労働大臣会合みたいな、ああいう方々は、その度に行かれるので、これはもう派遣されるのが当たり前みたいな職種です。そうではなくて、普通のメーカーさん等でやっている派遣というのは尋常かというと、私は、常用雇用が普通だと思います。そして、常に言うように、恒産なければ恒心なしで、しっかり職をもって。だから結婚できないのです、職が不安定だということで。だから、基本的には、日雇い派遣というのは私はいかがなものかと思っております。決して好ましいと思っていないですけど、日雇い派遣については、議論しないといけないですが、気持ちから言えば、かなり厳しく、原則的にこれはもう止めるような方向でやるべきではないかと思っております。しかし、それは、労使の意見も聞かないといけないです。だから、働き方の柔軟性、例えば、女性で家庭と仕事と両立させるために派遣のような形が良いという方はおられます。しかし、少なくとも日雇い派遣はあまりに問題が多いですから、そこにどうメスを入れるか。そして、派遣でも派遣元企業で常用化されてきちんとそこの正規の労働者としてやっている方はある意味で問題ない。しかし、登録しててその度に日雇いでどこかで働くというのは、やはり考えないといけない。私の姿勢は、労働者の権利を守るべきだと。そして、ワークライフバランスということで男女共同参画ということを言ってる観点から見て、つまり、厚生労働省の基本的な施策から見て、これは相容れませんよというのはあります。考えてみれば、少子化対策やろうと言っているのに、結婚もしないのに子どもつくるどころではないでしょ。そういうところの施策はやはり改めないといけない。一方では、家庭と両立させる、女性がたくさん仕事に行きたいという時に派遣のような形でやる方がいい場合もあるのです。そういうことを考えて、特に日雇い派遣についてはかなり厳しい形で私は考え直すべきだと思っております。労使、皆さん方の意見も聞いた上で秋には法律の形できちんと対応したいと思っております。


 最近、舛添要一厚労相を見直している。医師養成数増に関しても、日雇い派遣廃止問題に関しても、イニシアティブを発揮している。大臣会見も見ても、真っ当な感覚が垣間みられる。
 言葉の使い方も見事である。「恒産なければ恒心なし」。この一言で、派遣労働の問題点を言い表している。
 財界を後ろ盾にしている自民党の中にいて、何かと制約は多いとは思う。近く行われると予想される内閣改造で、厚労相として残留されることを望みたい。