保団連の判定勝ち、厚労省保険局医療課は墓穴を掘る

 外来管理加算をめぐる全国保険医団体連合会厚生労働省保険局医療課との攻防が熱を帯びている。全国保険医団体連合会のホームページより、関係する資料を時系列で列挙する。


(1) 6月1日:厚生労働省、調査データを不正流用。外来管理加算5分ルールで。保団連の情報開示請求により判明


 全国保険医団体連合会の情報開示請求の結果、外来管理加算の対象となる再診患者に対する診療時間の調査は実施されておらず、「平成19年度厚生労働省委託事業 時間外診療に関する実態調査結果」の数値をもとに中医協資料が作成されたことが判明。
 今回の外来管理加算5分要件に係る調査データ不正流用問題に対する「質問状」を、6月10日、厚労省に送付した。


(2) 6月21日:厚労省から保団連への抗議文が送付される。


 抗議文は全国保険医新聞(6月15日号)の記事を、「誤った開示資料の文言をそのまま用いて執筆している」とし、「単なる事実誤認の域を超え、意図的に誤った情報を流布したものである」と決めつけた。その上で、「当課としては、貴会のこうした誤った情報発信に強く抗議し、貴会が誤りを認め、速やかにホームページを修正し、新聞及びホームページにおいて訂正文を掲載することを、ここに申し入れる次第であります。」と結んでいる。


(3) 6月23日:厚労省から保団連への抗議文 ―保険局医療課のとんでもない勘違い―


 情報開示された文書が3種ある。このうち、(C)厚労省保険局医療課の文書の下書き(抗議文にいう「誤った開示資料」)を用いたと、厚労省は保団連に抗議した。
(A)厚労省保険局医療課の文書
(B)みずほ情報総研の文書
(C)厚労省保険局医療課の文書の下書き(抗議文にいう「誤った開示資料」)


 保団連のホームページに、この間の事情が記されている。

「誤った開示資料」(C)とは


 保団連の情報開示請求に基づき、5月30日に保団連に開示資料が届きました。
 その中の厚生労働省保険局医療課名の“「時間外診療に関する実態調査」ご協力のお願い”の文書文言(調査目的の部分)が実際の調査のときに配布された同名の文書(大阪府保険医協会に保存されていた)と微妙に異なっていました。
開示された文書より
“今後の時間外の診療体制のあり方を検討するための基礎資料とすることを目的に、”(C)
実際に配布された資料より
“今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に、“(A)
 この部分を除けば他は一言一句一致しています。これはどういうことか?
 6月3日 厚労省保険局医療課にお電話し、理由を問いました。森光課長補佐が対応されましたが、すぐには原因が分からず、「とにかく、こちらで調べまして、折り返しお電話します」というご返事でした。
 6月4日 森光課長補佐より当院にお電話があり、「あれ(C)は、正しい文書(A)の下書き用のほうを誤って保団連に送ってしまったもの。大変申し訳ない。後ほど正しい文書(A)を保団連に届けます。」とのことでした。
 後日、正しい文書(A)が保団連に届けられました。


 一方、(B)みずほ情報総研の文書は資料(C)を用いて作成されたために、“今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため、”という文言が残った。

 全国保険医新聞の記事は、厚労省の抗議文にある誤って開示された資料(C)の文言を用いたのではなく、みずほ情報総研の文書(B)から引用したものであります。
 保険局医療課は勝手にそれを(C)と早合点して抗議文を送付してしまった。
 とんでもない勇み足、勘違いです。
 これに対して6月23日保険局医療課に電話し、事実関係を伝えました。
 担当の森光課長補佐が不在のため、正式なコメントはいただけませんでした。


 良質の推理小説を読むような思いがする。3つの文書のわずかな違いを丹念に追い、厚労省のミスを明らかにした。


(3) 6月25日:外来管理加算での厚労省の抗議文に抗議しました


 要点を引用する。

厚生労働省保険局医療課の「抗議文」について即時撤回と書面による謝罪ならびに説明を求めます


 2008年6月20日付けで貴「厚生労働省 保険局 医療課」から、当会「全国保険医団体連合会」に対して配達証明で「抗議文」が郵送されてきました。この文書には差出人の責任者命が記載されておらず、一体「厚生労働省 保険局 医療課」の誰の責任で出したのかが不明です。通常、何らかの抗議をするとか申し入れをする場合、責任者名の記載が無い文書は非常識です。本来であれば無視してしかるべきものですが、差出人は公的な機関の担当部局であり、配達証明まで付けて郵送されています。また内容を見ますと個人名まで上げて記載しているなど、公的機関が一民間団体に抗議の意志を示す文書としては大仰に過ぎ、意図的であり、脅しと受け取られても仕方のない文書になっています。抗議の意味を超えて、言論封じと受け取られかねない内容であり、まずこのことに抗議するものです。


 以下、「医療課」の抗議文の問題点を5点あげている。
(1) 「当省が行った時間外診療に関する実態調査」とあるが、「当省がみずほ情報総研株式会社に委託して行った時間外診療に関する実態調査」と記載するべきものである。
(2) 「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に……実施することになりました。」としているから、調査結果を外来管理加算の検討に用いることについては、何ら不正使用に当たるものではないことは明らかである、と主張しているが、みずほ情報総研の文書には、「このたび厚生労働省では、今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため、時間外診療に関する実態調査を行うこととなりました。」と述べている。また、厚労省文書もみずほ情報総研の文書もいずれも「時間外診療に関する実態調査」と表題に掲げている。受け取った側としてはこれがまったく目的の異なる「外来管理加算の『見直し』」に使用されるとは考えない。
(3) 全国保険医新聞の記事について、「抗議文」は誤った開示資料の文言をそのまま用いて執筆しているとあるが、この引用はみずほ情報総研株式会社が作成した文書から引用しているものである。「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に……実施することになりました。」との「正しい」文書を作成したときに、みずほ情報総研株式会社に修正の指示をしていなかったのではないか。
(4) 「単なる事実誤認の域を超え、意図的に誤った情報を流布したものである」と述べているが、厚生労働省保険局医療課こそが事実誤認しているのであり、当会にこのような「抗議文」を配達証明つきで送りつけてきた責任をどのように取るのか。
(5) 当初開示された資料が「そもそも誤った開示資料」だったなとどいうことは、正規の手続きを行い開示請求をした当会としては信じられない事態である。この点の謝罪は当然であり、今後二度とこのようなことがないように対策をとるべきである。また、電話で問い合わせた情報収集担当理事に対し、勝手に「本件を担当する」とし、個人名まで挙げているのは意図的恫喝行為であると言われても仕方のないものではないか。


 最後に、本文書のまとめがくる。

 当会は上記の点から、今回の厚生労働省保険局医療課の対応でこの「外来管理加算の『見直し』」が、正確な調査に基づいて、調査結果をエビデンスに基づきしっかりと検討し、正しい結論を導き出すためのものであったとは到底いえないとの思いをますます強くしました。これは医療機関のみならず、苦労して検討された中央社会保険医療協議会の委員の諸先生方に対しても誠意ある対応であったとは到底言えないものです。
 調査内容自体も、「時間外診療に関する実態調査」にみあった調査票となっており、外来管理加算の新たなルールを確立するため診療実態を正しく把握し、誤りのない調査結果を示すものとは当然なっておらず、そのようなデータを使うこと自体に問題があったと言うべきです。
 また中央社会保険医療協議会に示されたヒストグラムのデータは「診療時間」を示していたにもかかわらず、実際の改定では「診察時間(医師が対面している時間)で規制をかけています。
 結果として厚生労働省が当初見込んだ以上のマイナス影響が4月改定以降出ており、不審と怒りの声が多くの医療機関から出されています。当会に抗議文を出す前に、このような事態を招いた理由と事実経過を明らかにするべく説明責任を果たすべきではなかったでしょうか。
 中医協における意思決定がこのような意図的な改変によってねじ曲げられたことは誠に遺憾であり、このような問題のある経過をたどった今回の5分ルールの導入をおこなった厚生労働省に対して断固抗議するとともに、外来管理加算の5分ルールの即時撤廃を要求するものです。
 あわせて今回の「抗議文」に対して強く抗議するとともに、即時撤回と書面による謝罪ならびに説明を求めます。


以上


 保団連の判定勝ちである。厚労省保険局医療課は「抗議文」を送ったことで墓穴を掘った。かつてない失態である。さて、厚労省からどのような返事が返ってくるか、楽しみである。