日雇い派遣原則禁止を厚労省検討

 昨日のエントリーの関連資料、[派遣労働についての基礎知識]より。

法令違反は五年前の一〇倍に


 一九九九年の派遣業務の原則自由化、二〇〇四年の製造業への派遣解禁という規制緩和を受け、人材派遣業界は急速に拡大してきた。〇五年度の派遣元事業所数は前年度比約六六%増の約二万カ所、実際に派遣された労働者数は前年度比約一二%増の約二五五万人、派遣先は前年比約三三%増の約六六万件。いずれも、一〇年前の三倍以上の水準だ。
 この急拡大に伴い、法令違反の件数も急増。厚生労働省が〇六年度に派遣元・派遣先を対象に実施した是正指導件数は、五年前の約一〇倍の六〇〇〇件以上にのぼる。
 その中でも、特に注目を集めたのが「偽装請負」だ。〇四年の解禁以来、メーカーなどが現場作業に派遣労働者を使うことはよくある。ただこの場合、期間は最長三年とされ、それ以降は正社員として直接雇用するよう申し入れる義務がある。一方、同じく現場作業を請負会社に「業務請負」として発注することも茶飯事だ。こちらは期間の規定や直接雇用の必要はないが、現場は請負会社の管轄になるため、メーカーが労働者に直接指示することはできない。そこで、実態は派遣契約なのに表向きは業務請負のように装い、現場で直接指示を出しながら直接雇用等の義務を免れるのが「偽装請負」である。
 厚労省が〇六年度に行った偽装請負の是正指導件数は、前年度の二倍以上となる約三四七〇件。その中には、キヤノンやNTT、松下系列、東芝系列など、日本を代表する企業群が数多く含まれている。それだけ産業界に広く深く“浸透”していたということだ。
 直接雇用の申し入れについても、メーカーが正社員ではなく期間工という条件を提示する場合が多く、派遣法が意図した雇用の安定にはつながっていない。
 派遣労働者の中でも立場が弱く、いわゆる「ワーキングプア」の温床となっているのが日雇い(スポット)派遣労働者だ。彼らをめぐっては、本論で触れている「データ装備費」とともに悪質な違法派遣が横行している。
 労働者派遣法は、素人には危険が伴う等の理由から、建設、港湾運送、警備の三分野への派遣を禁じている。ところが、日雇い(スポット)派遣大手のフルキャストは、厚労省の業務改善命令を無視する形で違法派遣を常態化。その結果、厚労省は〇七年八月、同社の約三〇〇カ所にのぼる全事業所に一〜二カ月間にわたる業務停止命令を下した。一企業に対する処分としては、異例の厳しさだ。同社と勢力を二分するグッドウィルでも、違法派遣の事実が指摘されている。一人の派遣労働者を複数の派遣業者が仲介し、そのたびに手数料を“ピンハネ”する「多重派遣」の問題も後を絶たない。


 派遣元(グッドウィルフルキャストなど)と派遣先企業(キヤノンやNTT、松下系列、東芝系列など)は共犯関係にある。派遣労働者を食い物にして利益を上げている。あまりにも露骨な労働法違反が横行したため、政府・厚労省は重い腰をあげざるをえなくなった。


 日経(2008年6月14日)、日雇い派遣原則禁止を厚労省検討、対象職種巡り難航もより。

日雇い派遣原則禁止を厚労省検討、対象職種巡り難航も


 厚生労働省は13日、日雇い派遣の原則禁止も視野に法改正の検討に入った。労働者派遣法の国会提出を前倒しし、今秋の臨時国会での成立を目指す。日雇い派遣には「ワーキングプアの温床」との指摘が多く、一部業者の違法行為も目立つ。ただ全面的に禁止すれば雇用機会が減る可能性があり、禁止する職種などを巡って改正案の策定作業は難航する可能性もある。


 舛添要一厚労相は13日の会見で「日雇い派遣はかなり厳しい形で見直すべきだ」と語り、通訳のような専門的職種を除いて原則禁止したいとの考えを表明。地方労働局を通じて派遣会社などに法令順守の徹底を求める指示も出した。(10:07)


 もう一つ、日経(2008年6月14日)、フルキャスト株が急落、厚労相の日雇い派遣「やめる方向」でより。

フルキャスト株が急落、厚労相日雇い派遣「やめる方向」で


 13日の東京株式市場では、フルキャストの株価が急落した。制限値幅の下限(ストップ安)となる前日比1万円(13%)安の6万6400円で比例配分され、大量の売り注文を残した。舛添要一厚生労働相日雇い派遣について「やめるような方向でやるべきではないかと思っている」と述べたことを受けて、日雇い派遣大手である同社株に売り注文が殺到した。


 フルキャストの2008年9月期の連結営業利益は22億円の見通し。このうち約半分を日雇い派遣を手掛けるスポット事業が稼ぎ出す計画。同社は違法派遣で業務停止処分を受けたことなどを背景に、日雇い派遣を主力とする事業モデルからの脱却を図っているが、道半ば。日雇い派遣が禁止となれば大幅な業績悪化は避けられない。


 市場では「どの程度の規制となるかが今後の焦点」(三菱UFJ証券)との声が聞かれた。「日雇い派遣には雇用を生み出す社会インフラの側面もある。行政も極端な規制には動けないのではないか」(外資系証券)との指摘もあった。 (20:54)


 日雇い派遣全面禁止が実行されるかどうかは不透明である。雇用機会が減る可能性があるという主張のもと、骨抜きになる可能性もある。日雇い派遣が全面禁止されても、登録型派遣は残る。派遣会社と派遣先企業が法律に触れないような抜け道を考え出す恐れもある。
 しかし、厚労省が、派遣労働者の保護と安定雇用の創出という原則をあらためて明確に打ち出した意義は大きい。
 違法行為を続けた場合には、コムスン(親会社はグッドウィル)のように退場を宣告させられることも派遣企業は覚悟すべきである。フルキャストグッドウィルもこれまでのように濡れ手で粟のようなぼろ儲けは期待できないものと考えなければならない。
 派遣労働者を多数受け入れてきた企業群の対応に注目する。コンプライアンス遵守の姿勢に立ち、自らの責任で直接雇用を増やしていくのかどうかが問われている。派遣や請負という安価な労働力に安易に頼らず、安定した成長を達成できるのかどうか、経営手腕が問われる。