低所得者ほど保険料負担減という宣伝は大嘘

 毎日新聞 後期高齢者医療制度:保険料軽減、低所得世帯ほど少なく 厚労省が初調査より。

後期高齢者医療制度:保険料軽減、低所得世帯ほど少なく 厚労省が初調査


 厚生労働省は4日、国民健康保険から後期高齢者医療制度に移行した際に保険料がどのように増減したかの調査結果(速報値)を公表した。69%の世帯で負担が減少したものの、低所得世帯ほど負担減の割合は少なかった。同省はこれまで「一般的には低所得者は負担が軽減され、高所得者ほど負担が増える」と説明してきたが、逆の結果となった。


 調査は、今年4月に新制度に移った1300万人のうち、国民健康保険から移行した1000万人強が対象。1830市町村の回答を集計し、(1)75歳以上の単身(2)夫婦共に75歳以上(3)夫75歳以上、妻75歳未満(4)75歳以上の親が子供夫婦と同居ーーの四つの世帯類型と、3種類の収入区分を組み合わせた12のモデル世帯について保険料額の変化を調べた。


 軽減割合を所得別にみると、年間の年金収入が177万円未満の「低所得」では61%▽177万円以上292万円未満の「中所得」75%▽292万円以上の「高所得」78%ーーとなっており、低所得世帯ほど保険料が減った割合が低いことが分かった。


 都道府県別に比較すると、減少する世帯割合が高いのが栃木、群馬、徳島県の87%だった。逆に全国平均より低いのは沖縄県36%、東京都44%、香川、高知県52%ーーだった。


 同省は、与党が3日に正式合意した、保険料の負担軽減策を実施した場合の推計値も公表した。全国平均では6ポイント上昇して75%の世帯で保険料が減る見込みとなった。8日に県議選投開票が行われる沖縄県では25ポイント上昇して61%となる。【佐藤丈一】


 ◇国民健康保険料の算定方式
 市町村ごとに三つの方式に分かれる。収入に応じた「所得割り」▽一律に同額を払う「均等割り」▽土地などに課す「資産割り」▽世帯にかかる「平等割り」ーーの四つを合計する「4方式」が最多で80・4%の市町村が採用(加入者ベースで46・4%)。「資産割り」以外の「3方式」が次ぎ、17・1%の市町村(同38・9%)で採用。均等割りと所得割りの「2方式」は2・4%の市町村(同14・6%)。


毎日新聞 2008年6月5日 東京朝刊


 同じく、毎日新聞後期高齢者医療:意図的に「負担減」強調? 厚労相算定より。

後期高齢者医療:意図的に「負担減」強調? 厚労相算定


 「低所得者ほど負担が軽減され、高所得者ほど重くなる」。後期高齢者医療制度の導入に当たり、厚生労働省が繰り返してきた説明は、同省が4日公表した調査結果で、事実と異なることが明らかになった。軽減の「根拠」となっていた国民健康保険保険料の算定方式が、高齢者人口の実態を反映しないものだったためで、意図的に「負担減」を説明してきたと言われても仕方がない。


 調査の結果、低所得世帯のうち保険料額が下がったのは61%。つまり39%はアップした。与党の軽減策を取り入れても27%の世帯は上がる。


 厚労省が「低所得者は軽減」と説明してきたのは、国民健康保険の算定方式に市町村の多くが「4方式」を採用していることを念頭に置いてのことだ。


 後期高齢者医療制度の保険料算定方式は、「均等割り」と「所得割り」だけなので、「資産割り」などが加わる4方式から移行すれば、一般的には負担が軽くなる。半面、平均すれば国保より新制度の方が所得割りを計算する保険料率が高いため、高所得者の負担が重くなる。


 今回の調査結果でも、4方式の市町村では低所得世帯の73%(与党案では79%)が負担減となり、「68%減」の高所得世帯より負担軽減の割合は大きい。


 しかし、「2方式」の国民健康保険はもともと保険料が低いうえ、低所得者を対象に独自の減免措置を行う名古屋市など財政が豊かな大都市の多くが採用する。そこから新制度に移行すれば、低所得者の負担は跳ね上がる。逆にこれまで減免措置がなかった高所得者は、結果的に負担が下がる。調査結果では2方式の低所得世帯の78%で負担増となり、与党の軽減策でも31%はアップする。一方で高所得世帯の負担増は15%(負担減85%)にとどまった。


 厚労省は「2.4%の市町村しか導入していない」との理由で2方式を例外扱いしてきたが、加入者数ベースでは全体の14.6%を占める。このため今回の調査結果では全体の傾向を左右した。


 3方式の市町村でも、負担が軽減した低所得世帯は60%(与党案68%)なのに、高所得世帯は84%で「高所得者優遇」との結果になっている。


 厚労省は「4方式が主流だ」とするが、4方式を採用するのは郡部の町村が多く、加入者数ベースでは5割を切っている。【吉田啓志】

毎日新聞 2008年6月4日 22時06分(最終更新 6月5日 1時22分)


 2つの記事をまとめると、次のようになる。
 ◇国民健康保険料の算定方式

  • 「4方式」:「所得割り」+「均等割り」+「平等割り」+「資産割り」。80・4%の市町村が採用(加入者ベースで46・4%)。郡部の町村が多い。
  • 「3方式」:「所得割り」+「均等割り」+「平等割り」。17・1%の市町村(同38・9%)で採用。
  • 「2方式」:「所得割り」+「均等割り」。2・4%の市町村(同14・6%)。低所得者を対象に独自の減免措置を行う名古屋市など財政が豊かな大都市の多くが採用。


 ◇後期高齢者医療制度の保険料算定方式

  • 「所得割り」+「均等割り」だけ。国民健康保険料の「2方式」に相当。


 保険料算定方式の違いにより、負担減者の割合に次のような違いが生じる。

  • 「4方式」: 低所得世帯73% > 高所得世帯68%
  • 「3方式」: 低所得世帯60% < 高所得世帯84%
  • 「2方式」: 低所得世帯22% < 高所得世帯85%


 この問題については、以前、後期高齢者医療制度 保険料 国保より上がるで取り上げた。「4方式」が主流だという厚労省の宣伝は意図的なものである。しかし、制度が始まればすぐに嘘と分かる主張をするなど、厚労省官僚の能力低下は目を覆わんばかりである。
 本推計は、国民健康保険からの移行者だけを対象としている。これまで負担がなかった健康保険の被扶養者は全て負担増となている。さらに、「医療費増の痛みを自覚させる」制度でも指摘したように、後期高齢者増加と65歳未満の若人人口減に伴い、2025年度保険料は2008年度の約2.2倍となる。目先の負担減に惑わされないようにしなければならない。