名ばかり管理職 「残酷」なくす一里塚に
2008年5月22日
「名ばかり管理職」の店長に、八月から「残業代を支払う」と、日本マクドナルドが発表した。他業種の店長に与える影響も大きいはずだ。過労死すれすれで働く労働実態を改める一里塚としたい。
昭和初期に作家小林多喜二が書いた、プロレタリア小説「蟹工船(かにこうせん)」が売れている今日だ。カニ漁で過酷な労働を強いられるありさまが、厳しい労働環境下にあえぐ現代の労働者に二重写しとなっているのであろう。
月に百時間を超える時間外労働をこなしながら、「管理職だから」という理由で、マクドナルドの店長が残業代を支払われなかった。
労働基準法では、一日八時間・週四十時間の労働が原則で、それを超える残業には、割増賃金を払う定めだ。だが、「管理職」には残業代などを払う義務がないのである。
この店長は「不当だ」と訴え、東京地裁も今年一月、残業代約七百五十万円の支払いを命ずる判決を出した。「管理職」の肩書が名ばかりであることが認められたことで、一気に社会問題化した。
外食チェーンばかりか、ぞろぞろと多業界で、「名ばかり管理職」の実態が浮かんだ。滋賀県では県立病院に対して、労働基準監督署が是正勧告を出した。「管理職」の肩書を与えておけば、残業させ放題という悪知恵が社会にまん延しているなら、許せない。企業などだけでなく、国には徹底した是正策を求めたい。
マクドナルドは控訴中だが、今夏からは「店長に残業代を払う」ほかに、「残業を限りなく減らす」ともいう。それは原告の店長が最も求めていたことだ。課題はきちんと履行できるかである。
一般論だが、残業が多い店長に対して、会社が評価を下げることがある。評価が下がれば、給料にも響きかねない。それを恐れて、多時間の残業をしながら「残業ゼロ」と申告する。つまり「サービス残業」と呼ばれる実態である。もちろん法に反する。
マクドナルド側は「労務監査室を新設し、適切な労務環境をつくる」というが、原告の店長は「業務量が減らない限り、労働時間も変わらない。サービス残業が増えないか」と懸念する。
企業社会にサービス残業が横行すれば、まるで現代版の「蟹工船」だ。勤務時間を把握し、残業には適正賃金を払う。当然のことだ。残業代まで「名ばかり」になっては、「マックのスマイル」が泣く。
毎日新聞、日本マクドナルド:残業代支給へ 「名ばかり管理職」で新制度、職務給廃止より。
日本マクドナルド:残業代支給へ 「名ばかり管理職」で新制度、職務給廃止
◇総人件費変わらず
外食大手の日本マクドナルドは20日、管理職扱いで時間外手当(残業代)を払ってこなかった直営店の店長約2000人に、8月1日から残業代を支払う新報酬制度を導入すると発表した。店長など管理職の肩書が付くだけで残業代などが支払われない「名ばかり管理職」の問題は、制度上解消されることになる。
現行制度では店長は管理職扱いで、基本給に店長手当などの職務給、業績による成果給を加えた報酬が支払われているが、残業代は払われていなかった。新報酬制度では職務給を廃止し、従来と同額の基本給に加え、成果給と時間外労働手当(残業代)を支払う。総人件費に増減はないという。さらに、この制度を店長の上司にあたるエリア営業管理職数百人にも適用する。
「名ばかり管理職」問題を巡っては、同社の店長や元店長が「管理職扱いされ時間外手当を支払われないのは違法」として未払い残業代や慰謝料などの支払いを求めて相次ぎ提訴。東京地裁は今年1月、「未払いは違法」として755万円の支払いを命じた。同社はこれを不服として控訴したが、企業イメージの低下を避けるため、新制度導入に踏み切ることにしたとみられる。
会見で原田泳幸(えいこう)会長兼社長は「報酬制度見直しは訴訟とは関係ない」と控訴を取り下げない意向を表明。労務管理強化に向け、労務監査室を新設し、現在平均18・3時間の残業時間をゼロにする方針を示した。原田会長兼社長は「日本には遅くまで働くことを『頑張っている』と評価する文化があるが、社内から意識改革したい」と話した。【望月麻紀】
◇「サービス残業ますます増える」「プライド持てる扱いを」‐‐不安、不満口々に
◇弁護士「効果期待できぬ」
日本マクドナルドの労務制度変更に、店長らが加盟する労組は、残業代支払いを評価しながら、不安と不満も口にした。
労組の若松淳志書記長は「サービス残業がますます増えるのではないか」と指摘する。会見で原田社長は「店長の残業時間は4月時点で(月に)18.3時間」と数字を挙げ、「業績を上げている店長ほど残業が少ない」と断言した。
これに対し若松書記長は「人手不足が進んでおり、アルバイトが足りない時間は店長がやらざるを得ない。そのまま残業時間として報告すれば能力がないとされる。圧力の中で、正確な労働時間を申告できない人が多いのが実態だ」と話した。
別の30代の店長は「残業代が出るといっても、職務給がなくなるのでは納得できない。必死で24時間営業を支えている。管理職のプライドと社長は言っていたが、それならプライドの持てる扱いをしてほしい」と訴えた。
残業代の支払いを求めて裁判を闘っている店長の高野広志さんの代理人、棗(なつめ)一郎弁護士は「今回のような、職務給を丸々残業代に付け替える方法では賃金低下を招きかねず、労働条件の不利益な変更に当たる可能性がある。残業時間の抑制を掲げているが、アルバイトや正社員の配置を厚くするとか、営業時間を短くするなどの具体的な方策は何も語られていない。効果は期待できない」と厳しい見方を示した。【東海林智】
毎日新聞 2008年5月21日 東京朝刊
残念なことながら、「名ばかり管理職」は今年の流行語大賞にノミネートされることは間違いない。端的に世相を言い表している。昔からあった「サービス残業」と表裏一体の関係にある。
日本マクドナルドは、企業イメージ低下を避けるために今回の制度改革をしたとのことだが、逆効果だろう。従業員を大事にしない企業だという印象が強くなるばかりである。そもそも総人件費を増やさないという発想自体が誤っている。