介護保険における維持期リハビリテーションについて

 来年度、介護報酬改定が行われる。リハビリテーション関係の報酬が改定の大きな目玉となる。


 2007年11月30日、中医協診療報酬基本問題小委員会にて、維持リハビリテーションに関する集中討議が行われた。中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会平成19年11月30日議事録と、そこで用いられた介護保険における維持期リハビリテーションについて 資料(診−1)を使用し、厚労省のプレゼンテーションを再現する。なお、議事録の中には、疾患別リハビリテーション料や回復期リハビリテーション病棟に関する論議があるが、今回は、介護保険における維持期リハビリテーションについてにしぼって、引用する。

○土田小委員長
 ただいまより、第113回中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会を開催いたします。
 最初に、委員の出欠状況について御報告いたします。本日は、白石委員が御欠席になっております。
 それでは、議事に入らせていただきます。
 本日は、前回の積み残しになっておりました「介護保険における維持期リハビリテーション」を議題としたいと思います。リハビリテーションに関しましては、本年3月に緊急の見直しを行いましたが、その際の中医協の意見と答申におきましても「平成20年度診療報酬改定に向けて、維持期のリハビリテーションの在り方について、調査・検討を行うこと」と指摘しておりました。これに関しまして、介護保険のサイドのほうで調査研究を進めているとの報告を受けております。
 最初に、事務局から説明をお願いいたします。


○事務局(鈴木老人保健課長)
 老人保健課長でございます。お手元の資料、11月30日付の中医協診−1をごらんいただきたいと思います。「介護保険における維持期のリハビリテーションについて」ということです。



 おめくりいただきまして1ページ目でございます。少し歴史的にも振り返りたいと思いますが、平成16年に、「高齢者リハビリテーション研究会」というところで、リハビリテーションに関する課題ということで幾つか御指摘がございました。特に課題のところの真ん中のところ、下線を引いて少し太字になっていますが、「医療から介護への連続するシステムが機能していない」ということ、それから、特に下の「あるべき方向性」の「個別的な計画に基づき、期間を設定して行」うべきだ、もしくは「単なる機能訓練を漫然と実施することがあってはならない」というような御指摘がございました。



 これを受けまして、2ページ目をごらんいただきますと、平成18年度、これは診療報酬の改定は2年ごとでございますけれども、介護報酬の改定が3年ごとですので、ちょうど18年度には一緒に改定をするということになりましたが、このときに、医療保険介護保険リハビリテーションについては役割分担をするべきだということで、介護保険につきましては、維持期のリハビリテーション、これについて、「生活機能の維持・向上を目指したリハビリ」を行うのだということで、きちっと仕分けをいたしましょうということにしました。
 その上で、先ほどの指摘も受けて、次の四角のところですけれども、もうきちっと、医師の指示のもとに、理学療法士等の専門職がやるリハビリも評価をしていくべきだと。それから、医療の回復期までのリハビリテーションの後、速やかに引き継げるような介護のリハビリテーションをするべきだということで、一番下のところ、短期集中リハビリテーション実施加算、それからリハビリテーションマネジメント加算というのを18年に設けたところでございます。



 これはどういうことかといいますと、3ページ目をごらんいただきますと、一番下の「リハビリテーション本体部分」というところが、これは通所のリハ、いわば外来的なリハでございます。これは、要介護度に応じて、大体1単位10円とお考えいただければいいと思いますが、時間に応じて価格は決まってございます。これは以前よりもございました。この上に2つ加算を設けました。一番上の短期集中リハビリテーション実施加算、これはサービス開始からの実施期間によって単位数が違いますけれども、個別に行った場合のみに評価をいたすということでございます。それからリハビリテーションマネジメント加算、これは期間の制限はございませんが、いろいろな職種が共同して計画を策定し、評価をきちっと行うということで加算を設けました。



(縦軸の単位は、それぞれ千件、千人)


 次の4ページ目をごらんいただきますと、左側のほうのグラフ、棒グラフになっているところは通所リハビリテーションの実際の利用者数の推移でございます。「季節変動」と書いてありますが、ちょっと冬の間は来られるのが少ないということですが、ここで特にごらんいただきたいのは、この折れ線グラフで示しているところでございまして、これは、加算の算定割合です。上のほうがリハマネ加算、下のほうが短期集中リハ加算ということでございますので、ほぼ5割の方に個別リハが提供されているということになろうかと思います。
 それから、棒グラフだけ見ますと少し減っているのではないかと見えるかもしれませんが、右側のグラフをごらんいただきたいと思います。実は、介護のほう、平成18年度で少し制度的な変更をいたしまして、通所リハビリテーションについても、要介護者に対するもの、これは黒いところで示してあります。それから要支援者に対する予防給付、これはちょっと別個に計上することにいたしましたので、実は、全体の介護の通所の維持期のリハビリテーションの総数ということになりますと、黒いところと灰色を足したものということになりますので、実際上は、今までの伸びよりは少し大きく伸びているというのが現状になろうかと思います。



 その上で5ページ目をごらんいただければと思いますが、介護保険の通所リハビリテーションというのは、先ほど申し上げたように、50%程度、まだ集団に対するリハビリテーションというものもあります。さらに、リハビリテーションについては、いろいろなバイタルサインのチェック、それから送迎や昼食、いわゆる「お預かり機能」も含まれているという場合がありまして、医療保険の外来と違いまして、非常に長時間、大体3〜10時間程度の設定となっているところですが、これについては特に医療の急性期・回復期から来られた患者さんについて、専門的なリハを受けたい、もしくは同じ施設でリハを受けたいというような御意見もあったところでございます。
 それを受けまして、平成18年度から、今年度も継続しておりますけれども、ここの2つの「◆」のところについて、研究を、今モデル事業を含めて実施をしております。1つは、リハビリテーションに特化した「短時間リハビリテーション」、これは「お預かり機能」がない維持期のリハビリテーションをどのように行うのかという検討、それからもう1つは、通所リハビリテーション、やはりある程度以上提供事業所の箇所数がございませんと実際上利用するのが難しいということにもなりかねませんので、これをどうやって拡大をしていくのか。特に老人保健施設だけではなくて、医療機関にも実施をしていただくにはどうするかというようなことも含めて、18年度からモデル事業をしております。介護のほうは平成21年度に報酬改定でございますので、それを受けまして、何らかの手当てをできる方向で検討していただければと思っております。
 ただ、この維持期のリハビリテーション、いろいろ疾患群ごとにございますけれども、脳卒中それから運動器のリハビリテーションは比較的介護のリハビリテーションでも知見もあるということでございますが、例えば心大血管のリハというようなものになりますと、やはり内科的疾患と不可分であるということでなかなか難しいのではないかというような御意見は出ておりました。
 以上でございます。


 質疑応答より。

○西澤委員
 最初に老健課長に聞きたいのですが、先ほどこの資料の5ページで、通所リハビリテーション提供事業所の拡大ですが、現在老健だけでしているものを医療機関にも実施とおっしゃいましたが、通所リハ、すなわちデイケアですね、これは今医療機関でもやっているのではないでしょうか。


○事務局(鈴木老人保健課長)
 ちょっと説明が舌足らずだったかもしれませんが、もちろん医療機関でもされているのですけれども、医療機関でももう少し拡大してやっていただくようになれば箇所数が増えるということで申し上げました。今やっていないということではございません。
 それから、すみません、関係で1点資料の訂正をさせていただきたいのですが、4ページ目の2つのグラフがありましたが、これは「千」という単位が両方とも抜けていまして、左側も「千件」、それから右側のほうも「千人」になりますので、ちょっとそれだけ訂正をさせてください。


○西澤委員
 今の説明、それであれば、現在よりどのような形で拡大していくのかがちょっと見えなかったので、説明をお願いできればと思います。


○事務局(鈴木老人保健課長)
 そこを今モデル事業で、まさに検討していただこうとしているのですけれども、今、人の要件、施設の要件、実施の要件、いろいろあると思いますが、人の要件は医療のほうが濃いというか、多いですので、そこは問題にならないと思うのです。施設の要件も基本的には医療のほうは、例えば100平米というように、絶対面積で決まっておりまして、介護のほうは1人当たり3平米というような形になっておりますので、おおむね問題にはならないと思います。むしろ、実施に当たって、現在は例えば時間帯を分けて、8〜10時は医療、10〜12時までは介護のような形できっちり分けないとだめだということになっていますが、その辺
 それからもう1つは、今医療のほうはきちっと手を挙げていただいて、指定をしないとできないということになっていますが、それをどうするかというように、何点か論点があると思いますので、そういうところも含めて検討させていただければと思っております。


○西澤委員
 はい、わかりました。


○竹嶋委員
 前のときもこういう意見が出たのですが、医療から介護に移る、要するに、問題は維持期です。急性期のリハビリに対しては確かに高く評価していただいてやっているからいいと思います。このリハビリ問題が2回にわたって議論されましたね、これは大変なことだと思いまして、7月にこの説明がありました4団体の各団体から、問題点がどこにあるかということをヒアリングを一つ一つ行わせていただきました。そして、それを少しまとめまして、10月に今度は合同で皆さんお集まりいただきました。ただ、それぞれ疾患別のリハビリにはもちろん評価されない面はあると思うのですが、とにかく皆さん共通にここはやはりこうあるべきだと。それからまた、疾患別でもほかの科がこう言うけれども、それはわかったと、それは確かにそうだろうと肯定できることがあったら出してくれないかというふうな私ども作業をいたしました。そして、その中で出たのですが、やはり共通に皆さんが言っていらっしゃるのはもう間違いありません。今さっき御質問がありましたけれども、やはり医療のリハビリから介護に行く、そのところをどうするか。これは、医療保険介護保険、両方でしっかり考えて見ていかなければいけないと本当に思うのです。
 それで、その中で、例えば心臓血管、これは鈴木課長もちょっと御報告なさっていただきましたが、私どももそう思います。心臓血管は介護のほうにお願いしても受けるところがないのです。はっきり言って怖いわけです。容体がどう変わるかわからないということで、その方たちは維持期のほうへ回せないということです。患者さんが嫌がられる、まず第一に、そういうことがあります。


(中略)


○土田小委員長 
 どうもありがとうございました。
 それから、介護保険につきまして、理学療法士とか作業療法士の補充が十分かという指摘がございました。


○事務局(鈴木老人保健課長)
 お配りした資料の診−1の3ページ目をごらんいただきますと、確かに17年までは、リハビリテーションの本体部分、特に集団リハビリテーションを中心としたものしかなかったわけですが、上に「短期集中リハビリテーション実施加算」というのがございますが、これは、医師、PT/OT/STが個別に短期集中的にやった場合に新たに評価をしたものでございますので、今これは実施率は5割近く来ていますので、これをよく見ながら、また御指摘も踏まえて検討させていただきたいと思います。


○土田小委員長 
 どうもありがとうございました。


 中医協論議の中で、介護保険における維持期リハビリテーションについて、という論議がされていることに違和感を感じていた。議事録を熟読してみて、厚労省の意図と感じたことを列挙する。


 医療保険の維持期リハビリテーション介護保険に完全に移行させようと目論んでいる。そのために、医療機関リハビリテーション施設を医療保険介護保険共用とすることを計画していると推測する。


 PT-OTネット、福岡県理学療法士会主催 平成20年度診療報酬研修会 日時:平成20年3月18日(火曜日)より。

厚生労働省保険局医療課主査: 佐方信夫氏による説明内容


■13単位の算定(維持期リハ)について
介護保険でのリハビリテーションが充実されていない現在での経過措置的なものであるため、22年度の廃止もありうる。


 維持期リハビリテーションが、医療保険から介護保険の「短時間リハビリテーション」に移行せざるをえなくなった場合、様々な弊害が生まれると予測する。まず、要介護度ごとの区分限度支給額上限のため、リハビリテーション量が制限される。報酬も医療保険と比べ著しく低く設定されるだろう。その場合、好んで維持期リハビリテーションを提供する医療機関は果たして増えるのだろうか。
 介護保険における維持期リハビリテーション問題は、医療保険における疾患別リハビリテーション料算定上限問題と密接にリンクしている。維持期リハビリテーションが必要なものに対し、十分なサービス提供ができるように制度設計が果たして可能なのだろうか。厚労省の政策能力低下、低医療費政策を考えると、悲惨なシステムとなるような気がしてならない。