「高齢者いじめの制度は許せない」

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「高齢者いじめの制度は許せない」
【特集・第10回】 後期高齢者医療制度
茨城県医師会会長・原中勝征さん


 75歳以上の高齢者を「後期高齢者」と呼び、健康保険や国民健康保険から追い出して強制加入させ、保険料を年金から天引きするだけでなく、保険料を払えなければ保険証を取り上げるー。厚生労働省は「長寿医療制度」という呼称を使用したポスターやチラシなどで「後期高齢者医療制度」への理解を求めたが、保険証の未着や保険料の天引きミスなど、混乱は続いた。制度の廃止を求める動きも活発化している。制度開始前、茨城県医師会は都道府県レベルの医師会では初めて同制度の廃止を求める声明を発表。「みなさん、こんな高齢者いじめの制度が許せますか!」と題するポスターを作成し、反対の署名活動を展開している。後期高齢者医療制度をめぐる問題について、同医師会会長の原中勝征さんに話を聞いた。(新井裕充)


ー制度がスタートする前の3月下旬の理事会で、反対する方針を決定したそうですね。
 全会一致で決めました。主治医が受け取ることができる「後期高齢者診療料」(患者一人につき月6000円)の届け出をしないで、従来通り出来高払いで算定するように会員医師に呼び掛けています。また、「後期高齢者診療料」の届け出条件である研修会を開催していません。厚労省は慌てて「介護保険の主治医研修会に出席した場合でも主治医として認める」とか、「研修を受講したという自己申告でも認める」などと言いだしました。おかしな話です。


ー県民からの反対署名も集まっているようですね。
 4月下旬、新聞の折り込み広告で制度の廃止に関する署名を求めました。ものすごい反響で、毎日のようにファクスなどが届いています。そのほとんどは生活苦で、例えば、「高級官僚や政治家に不正な使い方をされて生活が苦しいです」「余生を寂しく過ごしています」「官僚を野放しにすることは国民いじめです」といった内容です。


ー「長寿」ではなく、「末期」高齢者医療制度と言う人もいます。
 終末期の診療方針について、主治医が患者の家族と話し合って署名をさせれば、その主治医に手数料が入るなんて、そんなばかな制度がありますか。食う物も食えずに戦時中を生き抜いた、戦後の高度経済成長を支えたご老人を“うば捨て山”に追いやるような制度は断じて許せません。老人を大切にしない国の姿勢が問われていると思います。
?なぜ、このような制度をつくったのでしょうか。
 「新たな財源を生み出す」「老人医療費を抑制する」という二つの目的が考えられます。医療費の財源が不足していますから、現在の国民皆保険制度を守るためには新しい財源を生み出す制度が必要です。しかし、目的税(消費税)は財務省の管轄になりますから、集めたお金を財務省がハンドリングしてしまう。これは厚労省にとって好ましくないので、自分たちで使えるお金を集めることができる制度として、後期高齢者医療制度をつくったのです。


ー「老人医療費を抑制する」という目的ですが、老人医療費は伸びているのでしょうか。
 老人医療費が伸びているとは必ずしも言い切れません。東北大の病院管理学の教授は、医療費の伸びの一番大きい部分が「高額医療費」であるとして、医学や科学の進歩によって高度な治療方法や高額な薬剤が開発されたことを医療費増加の主な原因に挙げています。厚労省の医療費の推計もでたらめです。1995年の予測では、医療費が2025年に141兆円になると言っていました。しかし、2005年に出した予測では69兆円に下方修正しています。せめて10兆円ぐらいの変更ならいいですが、半分以下になるというのはおかしいでしょう。でたらめな数字を出して、国民に「大変だ」という意識を持たせて洗脳しようというやり方はいけません。


■75歳以上の老人医療費を無料に
ーテレビなどで原中会長が発言している内容に対して、厚労省は反発しているそうですね。
 (後期高齢者医療制度を設計した)保険局医療課の原徳壽課長は、わたしの発言が「間違っている」と反論しているようです。「フリーアクセス(自由な受診)は制限していません。好きな病院に自由に行くことができます」と言う。それなら、どうしてこんな制度をつくったのでしょう。なぜ、主治医の報酬を高くしたのでしょうか。(主治医である)内科の先生が耳鼻科や眼科の先生に患者を紹介したとき、耳鼻科や眼科の診療報酬の方が安くなっています。自分が主治医の報酬をもらっていて、紹介先の先生が安い診療報酬になることを承知で、「当院の患者さんをお願いします」と言えますか。つまり、後期高齢者診療料はフリーアクセスを阻止するための手段なのです。


ーしかし、主治医が高齢者の心身の状態を総合的に把握して、重複投薬や重複検査を減らすという厚労省の考えにも理解できる部分があります。
 確かに、患者の健康状態などを把握した上で、適切なアドバイスをする医師は必要です。老人になると、足や目が悪くなり、病気も増えます。「老老介護」の世帯や独居老人もいます。そこで、近所の診療所の先生が医師の立場から面倒を見てあげる必要があります。これは、「かかりつけ医」という呼称で日本医師会も主張しています。そこで、厚労省は「日医も認めているじゃないか」と言いますが、日医が主張している「かかりつけ医」と厚労省の「主治医」は違います。日医の言う「かかりつけ医」は、医師の社会的な奉仕を広げた内容であって、ほかの病院に行くことを阻止する制度ではありません。


厚労省は「主治医は一人」とか、「主病(主な病気)は一つ」と言っていますから、やはりフリーアクセスを制限しますね。
 老人になるといろいろな病気を持っていますが、「主な病気は一つだけ」ということが、この制度の根本にあります。ですから、主病を扱った医師だけが高い診察料を受け取ることができて、副病を扱った医師は安くなるようにしたのです。内科医は心臓や血圧は診ることができますが、目の病気や前立腺肥大、脳出血後のリハビリ、外科手術が必要な胃がんなどは診れませんから、専門の医師に頼む必要があります。しかし、これらのうちどれが主病であるか、医学的に一つに決められるのでしょうか。「主治医は一人」「主病は一つ」という言い方をすることは、「高齢者を総合的に診る」という考えとは違います。高齢者を総合的に診るための制度であるなら、高齢者が気軽に何度も病院に行けるような制度にすべきです。わたしは、75歳以上の老人医療費は無料にすべきだと考えています。


後期高齢者医療制度は廃止すべき
ー75歳以上の老人医療費を無料にするとして、財源はどうしましょうか。
 国家予算の一般会計83兆円に対し、各省庁が資金の使い道を握る特別会計は240兆円あるといわれています。この240兆円の中の1兆円を回せばいい。後期高齢者医療保険料は全部で約8100億円、やがて1兆2000万円にまで増えるといわれていますが、240兆円の中から1兆円ぐらい出せないわけないでしょう。特別会計を一般会計に回して国民のために使わなければ、どんなに間接税を上げようと国民は幸せになれません。後期高齢者の保険料なんて、必要ないのです。国の無駄遣いや利権に染まった国家予算を減らせばいいのです。


年金記録の問題も解決していないのに、お年寄りの少ない年金から天引きする。批判が噴出するのは当然ですね。
 後期高齢者医療制度社会保障制度であるなら、年金の少ない高齢者に対して保険料を免除するなど、何らかのセーフティーネットが必要です。憲法25条(生存権)により、国は国民の最低限度の生活を保障する義務がありますから、生活が苦しいお年寄りを保護する責任があるはずです。それなのに、戦後の荒廃から今日の日本をつくったご老人の年金から税金を取って、介護保険料を取って、さらに後期高齢者保険料を取る。これは、国の老人に対する基本的な姿勢が間違っているとしか言いようがありません。やはり、後期高齢者医療制度はいったん廃止して、改めてお金の出し方を国民全体で考えるべきでしょう。厚労省が本当の数字を出した上で、「医療費が足りませんから、この方法しかありません」ときちんと提案すれば、わたしたちも協力します。しかし、現在のままでは、厚労省はますます国民の信頼を失うでしょう。こんな高齢者いじめの制度は許せません。


更新:2008/05/09 20:05 キャリアブレイン


 後期高齢者医療制度廃止の急先鋒、原中勝征茨城県医師会会長の発言は、いつ聞いても小気味良い。保険局医療課の原徳壽課長が苛立つのもよく分かる(参照:後期高齢者診療料届け出拒否問題に対する厚労省課長の苛立ち)。