医療費財源(その3)-保険料負担(事業主、被保険者)減少の原因

 全国保険医団体連合会、グラフでみるこれからの医療、医療保険財政の赤字の主因は? より、保険料負担(事業主、被保険者)減少に関係する資料を引用する。


# 被用者保険保険料負担減少の原因

財政悪化の3つの主因


 医療「改革」が避けられない理由のひとつとして、健保組合財政が赤字であることがあげられています。
 財政が悪化した原因は、どこにあるのでしょうか。1つは、国が老人医療への国庫支出割合を45%から35%へ引き下げたことです。2つは、それにともなう健保組合からの老人医療への拠出金割合が33%から40%へと増加したことです。3つは、リストラと賃金据え置きにより保険料収入が大幅に減少したことです。健保組合の被保険者は1993年から2002年の9年間で70万人も減少しています。1993年以降の財政悪化の主な原因は、老人医療費などが支出急増ではなく、保険料収入の大幅減少であることがわかります。政管健保では、解雇者の増加により、被保険者数の減少と標準報酬月額の低下による保険料収入の減少があり、市町村国保は不安定雇用者、失業者の流入で、財政が悪化しました。
 政府は、今後いっそうのリストラがすすむことを容認しているため、健保組合の収入がさらに減収となることが懸念されます。財政の収支改善のためにも、拠出金割合を適正なレベルに戻すことと、老人医療への国庫負担率を元に戻すことが求められます。


# 他国との比較


 全国保険医団体連合会、グラフでみるこれからの医療、社会保障の財源を考えてみましょう、より。


国によって大きく異なる料事業主負担の割合


 先進国の多くは、医療や年金、介護などで社会保険方式をとっていますが、社会保険料の本人負担と事業主負担はどうなっているのでしょうか。勤労者の年収に占める保険料率を、本人負担分と事業主負担分にわけて、国際比較してみましょう。
 給与から天引きされる本人負担は、スウェーデン7.0%、フランス9.6%、ドイツ21.0%、日本10.9%となっています。一方、事業主負担分は、スウェーデン28.6%、フランス32.0%、ドイツ21.0%などと日本の11.3%と日本を大きく上回っています。


 同様の数字が、李啓充氏 「〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療」、第123回にも記載されている。


# 事業主保険料負担がなぜ少ないか


 事業主保険料負担の少なさに関係して、李啓充氏は、 「緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療」で次のような主張をしている。第124回、より。

 「国民負担率」がどれだけmisleadingな言葉であるかを4回にわたって論じてきたが,ここまでの議論を以下にまとめる。


1)国民負担率は個々の国民の実際の負担を反映しない:国民負担率が日本よりも小さい国(たとえばアメリカ)の国民負担は日本よりも極端に重いし,逆に,国民負担率が日本よりもはるかに大きい国(たとえばフランス・スウェーデンなど)の国民負担は,日本とそれほど変わらない。
2)国民負担率が大きい国で国民負担が重くならない最大の理由は,事業主が手厚く社会保障費を負担していることにあり,先進諸国の実情を見る限り,「小さな政府」は,実際的には「国民の負担が重く,事業主負担は軽い国」と同義と言ってよい。


 続いて、第126回、より。

 前回,「小さな政府」路線が,(1)経済成長を実現してこなかっただけでなく,(2)先進国中でも最悪グループに属する富の偏在をもたらしてきた事実を示したが,こういった「失敗」の厳然たる証拠があるにもかかわらず,政府も財界も,「小さな政府」が失敗しているとは考えていない。それどころか,小泉政権以降の「改革」は着実に成果を上げてきたのだから「小さな政府」路線はますます強化されなければならない,と主張している。

「財界一人勝ち」のカラクリとは


 彼らが,失敗の証拠にもかかわらず,なぜ,「小さな政府」と「改革」に固執し続けるのか,その理由を図にまとめたが,小泉政権発足以後,企業の(税引き後)純利益が凄まじい勢いで増加し続けていることがおわかりいただけるだろうか? ここ10年間の日本の経済成長率がOECD加盟国中最低であることは前回も述べたとおりだが,国全体の経済という「パイ」の大きさはさほど変わっていないのに,財界は,自分たちの取り分だけは着実に増やし続けてきたのである。しかも,「パイ」の取り分をどうやって増やしてきたかというと,主に,「人件費」を減らすことで(即ち,勤労者の「パイ」の取り分を減らすことで)達成してきたのである。
 言葉を換えると,今の日本は,「財界一人勝ち体制」になっていると言っても過言ではないのだが,財界関係者を経済財政諮問会議間議員に据えるという形で,プライベート・セクターの人間(=利益団体の代表)にパブリック・ポリシーの根幹を決める権限を与えてきたのだから,こういう結果になったのも当然だろう。政府も財界も,「小さな政府」と「改革」をあたかも自明の公理であるかのように唱え,医療費も含めた社会保障費を抑制し続けてきたが,その本当の目的が「国家レベルでの人件費削減(=社会保障費の事業主負担軽減)」を断行して企業の利潤を確保することにあったことは,図からも容易に読み取れるのである。


医療崩壊を加速する「持続可能な医療制度への改革」


 翻って日本の医療の現状を見たとき,いま,日本の医療が崩壊の危機に瀕していることを否定する医療者はいない。日本の医療がここまで追いつめられた根本原因が,積年に及ぶ医療費抑制政策にあったのは言うまでもないが,皮肉なことに,「小さな政府」派の人々が,「医療費抑制」の同義語として好んで常用する言葉が「持続可能な医療制度の構築」である。実は,この間,彼らが「持続可能な医療制度への改革」を実施するたびに,医療崩壊への流れが激しさを増してきたのだが,日本の医療を崩壊から救い,本当に持続可能なものとするためには,まず,「小さな政府」派の人々によるところの「持続可能な医療制度への改革」を止めさせることから始めなければならないのである。


 一方、厚労省宮島俊彦審議官は、「医療の財政問題」(社会保険旬報No.2347:p.6-14、2008.4.1)において、医療保険間の財政調整について、下記のような言及にとどまっている。

 今日、パート、アルバイト、派遣などの非正規雇用の雇用者に占める割合は、3分の1を超えている。非正規雇用は、被用者であるのだから、本来は、被用者保険に属する。しかし実態は、労働時間などでの足きりのため、国保に加入している。そして、この非正規雇用が、国保の若い世代の保険料の未納問題につながっている。これは、国民年金制度においても同様の問題になっている。非正規雇用については、適用条件をゆるめ、健保・厚年で適用するのが筋であるが、中小企業や非正規雇用に頼っている業界の反対で、なかなか実現しない。とするならば、本来被用者保険に属すべき非正規雇用国保に加入していることに着目して、制度間の財政調整を実施することも検討に値する。


 国庫負担削減について触れなかったように、負担能力がある財界に事業主負担増加を求める主張は全くしていない。


 これまで3回にわたって、医療費財源問題について論じてきた。消費税増税に頼らず税金の使い道を変えることで国庫負担を拡充すること、そして、非使用者の保険料を上げずに事業主負担の増大を求めるということが重要であると考える。
 このことに関して、李啓充氏は、「〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療」にて主張されていくだろう。
 最後に、全国保険医団体連合会、グラフでみるこれからの医療、「保険証1枚」でかかれる医療制度への提案をご紹介する。全国保険医団体連合会の提案する内容が実現できたならば、日本の医療は再生できると私は思う。