医療費財源(その2)-国庫負担削減が医療保険財政悪化と地方負担増大の原因

 国民医療費に占める国庫負担の割合は、1980年度30.4%と比し2005年度は25.1%と減少している。一方、地方負担の割合は、5.1%から11.4%と倍以上となっている。
 国庫削減の経過については、全国保険医団体連合会医療と健康のページに詳しい資料がある。


# 国民健康保険に対する国庫削減

国保財政が赤字の理由は?
  --国庫負担の切り下げが原因


 国民健康保険財政も、毎年1,000億円を超える赤字と報道されています。国保の赤字の原因も、国庫負担率の切り下げです。国は1984年に老人保健制度が新設されたことを理由に、それまで医療費総額の約45%を支出していた国庫負担率を約38.5%に引き下げました。


 国庫負担率の切り下げがなかった場合を試算してみました。下図のように2002年度(見込み)の単年度収支差引額はマイナス1,712億円ですが、国庫負担削減額は5,991億円となり、差し引きは十分な黒字になることが分かります。


# 政府管掌保険に対する国庫削減

 患者負担引き上げの理由に、政管健保政府管掌健康保険)の赤字があげられています。政管健保の財政は図のように1990〜91年には3千億円以上の黒字でした。この黒字を理由に92年、政管健保への国の補助金の割合が、それまでの16.4%から13%に引き下げられました。


 こうして92年には黒字額が激減、93年以降は赤字に転落してしまったのです。92年から2002年までの国庫負担の削減額は合計で1兆6千億円にも上ります。このように国庫負担の引き下げが、政管健保の赤字の最大の要因です。


# 老人医療費に対する国庫削減と健保組合拠出金増加

健保組合が赤字の理由は?


医療「改革」が避けられない理由の一つとして、健保組合財政が赤字であることがあげられています。


 財政が悪化した原因はどこにあるのでしょうか。1つは、国が老人医療への国庫負担割合を45%から35%へ引き下げたことで、健保組合からの老人医療への拠出金割合が33%から40%へと過度に増加したことです(下図左)。二つには企業のリストラによって健保組合の被保険者が減少(下図中)、保険料収入が大幅に減少したことです(下図右)。


 このように健保組合財政の悪化の主な原因は、保険料収入の大幅減少であることがわかります。政府が老人医療への国庫負担率を元に戻すことも必要です。


 国民医療費における地方負担が増大している。全国保険医団体連合会、グラフでみるこれからの医療、国民健康保険をめぐる問題 、より関係する資料を引用する。

無職者増加と受診抑制


 1987年に国保の資格証明書の発行がはじまり、治療費が心配で病院にかからず、手遅れによる死亡事件が相次ぎ問題になりました。
 04年度に資格証明書を使い受診した16都道府県の被保険者のデータをもとに受診率を推計したところ、03年度の市町村国保の一般被保険者の受診率と比較すると、交付数第1位の神奈川県で30分の1、2位の福岡県で100分の1となっています。受診率が著しく低くなっていることがわかります。
 2002年の高齢者の患者負担増や2003年の健保の3割負担の実施で、高齢者をはじめ深刻な受診抑制を引き起こしています。
 国保をめぐる大きな問題の焦点は、日本の誇るべき皆保険制度が、空洞化し崩壊するという危機が目の前にせまっていることです。そして、国民のいのちや健康を守るための制度が、広範に人権侵害を引き起こしていることです。
 「制裁措置」と相次ぐ医療制度改悪によって、受診抑制が広がり、健康破壊と生活不安を引き起こしているのです。その結果、手遅れ死亡事件を引き起こし、国民の医療を受ける権利が侵害されています。

払いたくても払えない高い保険料


 資格証明書、短期保険証の発行は、うなぎ登りに増加しています。払いきれない保険料の滞納者が増加し、滞納者に制裁措置が行われ、全国でさまざまな人権侵害を引き起こしているのです。皆保険制度の空洞化・崩壊が国民健康保険から進行しています。また、国保を運営している自治体では、破綻寸前といわれている国保財政に四苦八苦しています。
 一方で、各県の保険医協会や地域社保協の運動などで、改善を勝ち取っているところもあります。資格証明書の発行をゼロや低く抑えるところ、減免の拡充や保険料を引き下げたところもあります。また、一部負担金の免除・減免を実施させたところもあります。


 市町村国民健康保険加入者は、以前は農林水産業や自営業者が多かった。しかし、現在は無職者が半数を占める。勢い、国民健康保険を運営する自治体の財政負担が増える。また、被保険者の保険料負担が増え、払えたくとも払えない事態が引き起こされている。


 2005年度の国民医療費は33兆1289億円である。1980年度と2005年度の国庫負担削減率5.1%、地方負担増大6.3%をそれぞれ計算すると、約1兆6900億円の削減、約2兆900億円の増加となる。


 厚労省宮島俊彦審議官は、「医療の財政問題」(社会保険旬報No.2347:p.6-14、2008.4.1)にて、意図的に行われてきた医療費国庫負担削減について口をつぐんでいる。