世代間の分断をはかる制度

 FujiSankei Business i.、健康保険料の高齢者医療費 負担分を明確に区分、より。

健康保険料の高齢者医療費 負担分を明確に区分


FujiSankei Business i. 2008/5/1


 高齢者の医療制度が4月から変わったのに伴い、会社員らの健康保険料も、本人と扶養家族の医療費に充てられる分と、高齢者の医療費に充てられる分が、明確に区別される。


 現在、給与明細や納付書などには高齢者分も合わせた保険料が記載されているが、早いところは4月の給与明細から本人らの「基本保険料」、高齢者らの「特定保険料」などと分けて記載。40歳以上は介護保険料も負担するため、医療・介護で記載される保険料が3種類となる。


 ただ、給与明細などの変更にはシステムの改修費用が必要となるため、変更は任意。当面は変える予定がないという健康保険組合も少なくない。健保組合などの被用者保険に加入する会社員らは、新医療制度に加入した75歳以上に「支援金」、65〜74歳には「納付金」などの形で、高齢者の医療費を負担する。


 市町村が運営する国民健康保険国保)の加入者が負担するのは支援金だけ。65〜74歳のほとんどが国保に入っているため納付金はない。このため、保険料(税)も支援金分と加入者・家族の医療分になる。納付書などへの記載は任意。


 高齢者の医療費を賄う財源として、これまでも75歳以上については、健保組合の会社員や国保加入の自営業者らの保険料が充てられてきた。


 後期高齢者医療制度の財政運営は、都道府県単位で全市町村が加入する広域連合が行う。財源は、高齢者保険料1割、医療保険者からの支援金約4割、公費約5割となる。一方、前期高齢者(65〜74歳)は被用者保険との財政調整により国保の負担を軽減することになっている。
 この支援金部分にどの程度の費用がかかったかを、納付金として、給与明細に記載されるシステムが作られた。



 政府は、後期高齢者医療制度に関して、世代間の分断をはかる戦略を意識的にとっている。Yahoo!ニュース(産経新聞)、【官房長官会見(2)】後期高齢者医療制度「見直し検討しない」(21日午後)、より。

官房長官会見(2)】後期高齢者医療制度「見直し検討しない」(21日午後)


4月21日18時29分配信 産経新聞


後期高齢者医療制度


 --朝日新聞世論調査内閣支持率が25%に急落した。安倍政権のときの最低の支持率よりも下回った。受け止めは。原因として顕著に出ているのが、高齢者医療制に対する不信感が圧倒的に70%以上が不信感をもっていて、これまで福田政権の支持率を支えてきた高齢者の支持率が急落しているのが原因だ。高齢者医療制度について何らかの対応の考えはあるか


内閣支持率が下がっていることについて、私どもとしては、常に注意を払っていかなければならない。国民の世論の動向ということには常に私どもも注意をもって、その原因等は向き合っていかなければいけないと思います。今、長寿医療制度の話がありました。これはですね、この瞬間だけをとらえると、確かに一部負担が増える方もいらっしゃるわけでありますが、長い目で見たときにこれはもう、平成10年からですね、ずっとこの医療制度改革ということで給付と負担の公平ということにずっと取り組んできたわけであります。たとえば、平成10の医療制度改革では若者の世代は一律3割負担というようなことで負担割合を変えたりしておりますし、平成15年以降の医療保険制度、あるいは介護、年金等々もですね、世代間の公平性の確保という観点からいろいろな改革を進めてきたところでありまして、その一環として今回の長寿医療制度もあるんだという流れを、ひとつご理解をいただきたいなと思います。特に75歳以上の高齢者の保険負担料は増えているわけじゃございません。1割負担というのは変わっていないわけでございまして、そういう意味で、何か負担が増えるんだというような話がありますけれども、決してそうではない。ただ、一部の方には、確かに負担増をお願いするケースもあります。たとえばサラリーマンに扶養されている方々。あるいは息子さん、娘さん、あるいは高額所得者の方々、あるいは自治体の豊かな補助があって、その補助分がこれを機会に各自治体が補助をやめる。たとえば東京とか、名古屋とか、そういうところなんですけれども、そういう方々の負担が多少増えるというケースが実際あるようでございます。しかし、いうならばこれは、不公平の是正とか、格差是正のためでありまして、また、受益と負担を明確化していくということなわけですね。ですから、そういう意味で、比率は別として非常に多くの方々の負担はむしろ減る。そして、この健康保険の制度が、安定的に今後も運用できる。これから間違いなく、高齢者の方々の数が増える。高齢者の方ほど、当然医療費は若い人よりも4倍ないし、5倍大きいという状況にあるわけですから、そういう意味で、一定のご負担を今までよりは公平の観点でしていただく方も若干いらっしゃるということであって、私はこの制度というものの本来の趣旨をご理解をいただければ、私は次第にみなさん方のご理解もいただけるのではないか。そうした理解を得る努力が、今まで不足していた面も率直に言ってあったと思います。国も努力しなければなりませんし、自治体によってそのへんの説明ぶりが必ずしも十分ではない自治体もあったようであります。先般もお話をしましたけれども、きちんと去年の秋から説明をしている自治体においては何ら苦情は来ていないというような報告を私も、いくつかの市長さんから受けております。市長さん、町長さんですね。そんなこともあるもんですから、私どもとしては理解を得る努力を最大限していこうと、こう思っております」


 --制度そのものについて見直しを検討することはないか


「ありません」


 --制度の目玉の1つである、担当医制度、かかりつけ医制度だが、増え続ける医療費に歯止めをかける狙いがあったと思う。一部、茨城、秋田などの県の医師会から外来診療の制限になりかねないとして担当医にならないよう医師に呼びかけている。診療報酬が定額だというのも一因だと思うが、そのあたりの動きについてどう考えるか


「これはそもそもですね、日本医師会さんからも大変強い要望があって、この制度がまずできたんだというスタートのポイントをぜひ、ご認識をいただきたい、こう思っております。確かに定額制ということでですね、受診抑制になるのではないかというご意見もあろうかと思いますけれども、逆にそれでは次々、次々同じ病名で、あちこちの診療所を渡り歩くということが本当に、これ、いいことなのかということですね。やはり、かかりつけのお医者さんが常にその患者さんを見ていてですね。そして、もちろんその患者さんが希望すれば、他のお医者さんに行くことはいけないというわけじゃないんですよ。それは従前通り行ったっていいんです。ただ、特定のお医者さんがいつも特定の患者さんを見ていれば、その変化というものがよく分かるという意味で、かかりつけ医という制度を作ったらどうか。これ、本当に医師会のみなさんのご要望があってできあがった制度なんです。そういう意味で、今までよりはより高齢者に優しい制度を作ったんだというあたりを、医師会のみなさん方にもご理解をしていただければと思います」


 高齢者と若年者、これまでも保険料を払っていた高齢者と扶養家族になっていた者、それぞれの不公平や格差の是正名目で後期高齢者医療制度の合理化をはかろうとしている。


 以上の仕組みの問題点に関して、全日本民医連の相野谷安孝氏は次のように述べている。トピックス/寄稿 後期高齢者医療制度って?、より。

”コスト意識”で世代間の対立をあおる政府


 これまでの医療改悪で用いられたのが「高齢者が医療費を使うから、国や医療保険の財政がたいへん」などの、世代間の対立をあおる方法です。後期高齢者医療制度でも「現役」世代は、自分が加入する医療保険に入る保険料と、高齢者医療制度に支出される保険料が明記されます。たとえば給与明細に表示され、「こんなに高齢者にお金を使っているのか」という“コスト意識”をあおるのです。


 しかし対立をあおる方法は限界にきています。政府は「医療機関は儲けすぎているから、医療保険財政がたいへんだ」と国民の不信感をあおることで診療報酬を削った結果、医師の労働はいっそう過酷となり、産科や小児科が地域から消える“医療崩壊”を招きました。高齢者の負担を増やしても、「現役」世代にとって高齢者は将来の我が身です。


 結局、小泉・安倍政権とつづく社会保障改悪が浮き彫りにしたのは、国や大企業の負担だけが軽くなったという現実。「福祉のため」の消費税は、法人税の軽減などに消えただけでした。医療・介護から「軽症」「軽度」を排除するという考えも持ち込まれ、療養病床の削減(38万床から15万床に)、リハビリの日数制限、介護保険の軽度者からの車いすやベッドのとりあげなどがおこなわれました(06年)。そしていま、かぜなどの「軽い」病気を、医療保険からはずすことも検討されています。

 「現役」世代にとって高齢者は将来の我が身という言葉が重い。医療崩壊を食い止めるためにも、医療費やその他の社会保障費の財源はどこにおくべきかが問われている。