初発脳卒中患者の回復期リハビリテーション適応者の推計

 脳卒中患者中、どの程度回復期リハビリテーション適応者がいるのかに関するデータは少ない。脳卒中データバンク2005にある大木宏一らのデータ*1を用いて、初発脳卒中患者の回復期リハビリテーション適応者について推計を行う。


 本研究における平均在院日数を示す。

 なお、退院先についての記載がないため、自宅退院と転院の割合は不明である。


 mRS基準を示す。

  • grade 0: 全く症状がない。
  • grade 1: 症状はあるが特に問題となる障害はない(通常の日常生活および活動は可能)
  • grade 2: 軽度の障害(以前の活動は制限されているが、介助なしで自分のことができる)
  • grade 3: 中等度の障害(何らかの介助を必要とするが介助なしに歩行可能)
  • grade 4: 比較的高度の障害(歩行や日常生活に介助が必要)
  • grade 5: 高度の障害(ベッド上生活、失禁、常に看護や注意が必要)
  • grade 6: 死亡


 次に退院時mRSの内訳を示す。mRS 3-5を回復期リハビリテーション病棟対象者と仮定した数字を表の右端に示す(単位%)。

mRS 0 mRS 1 mRS 2 mRS 3 mRS 4 mRS 5 mRS 6 回復期リハ対象(mRS 3-5)
脳梗塞(1,401)  18.0  29.2  14.7  8.9  14.9  9.0  5.2    32.8
 アテローム血栓性(418)  15.5  26.1  16.5  10.0  18.7  8.9  4.2    37.6
 ラクナ(574)  23.1  41.2  15.0  8.2  10.3  1.6  0.4    20.1
 心原性塞栓(277)  13.8  18.6  11.8  8.4  16.3  19.0  12.1    43.7
 その他(132)  22.7  29.4  15.0  8.6  12.4  5.7  6.0    26.7
くも膜下出血(281)  37.5  18.3  5.3  5.1  7.7  8.0  18.1    20.8
脳出血(157)  10.9  18.6  11.8  10.0  22.4  12.2  14.0    44.6


 脳出血の44.6%が退院時mRS 3-5となっている。ついで、心原性塞栓が43.7%、アテローム血栓性37.6%と続く。ラクナ梗塞は20.1%である。くも膜下出血も20.8と少ないが、死亡率(mRS 6)は18.1%と多い。


 積極的に脳卒中急性期医療を行っている医療機関のデータバンクでは、全体として30-40%の回復期リハビリテーション適応者がいる。再発も含め、全国で年間20-30万人の脳卒中を発症すると言われているため、6-12万人の回復期リハビリテーション適応者がいることになる。平均在院日数を約3ヶ月とすると、脳卒中だけで1.5-3万人分の回復期リハビリテーション用のベッドが必要となる。再発患者の方がより重症であることを考慮し、脳卒中用回復期リハビリテーション病床必要数推計値を約3万床とする。回復期リハビリテーション病棟入院患者の約半数が脳卒中であるため、全体として、約6万床の回復期リハビリテーション用ベッドが必要となる。この数値は、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会の目標値、人口10万人あたり50床に相当する。


 高齢化に伴い、脳卒中発症者数は増大する。また、大腿骨頸部骨折なども増える。全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会総会での議論では、厚労省は回復期リハビリテーション病棟を6万床では足りないといっているらしい。
 一方、回復期リハビリテーション病棟適応の明確化で述べたように、回復期リハビリテーション病棟の適応を厳しくするという考え方も根強くある。しかし、療養病床や障害者施設等病棟で脳卒中リハビリテーションが事実上不可能となった現状を考えると、回復期リハビリテーション病棟しか受け皿はない。在宅復帰率60%以上を目指すため、回復期リハビリテーション病棟の適応をしぼることになれば、多くの患者がリハビリテーションの機会を逸することになる。


 回復期リハビリテーション病棟の絶対数を増やすこと、そして、質を高めるための努力を続けることは、両者とも達成すべき課題である。

*1:大木宏一、棚橋紀夫: 初発脳卒中患者の脳卒中スケールを用いた重症度、予後の検討.脳卒中データバンク2005、中山書店、2005、p.19-21.