08年診療報酬改定に対する全日本民医連の見解

 08年診療報酬改定に対する全日本民医連の見解(2008年2月25日)が、本日アップされた。全文を引用する。

08年診療報酬改定に対する全日本民医連の見解
−診療報酬の大幅な引き上げの再改定を−


2008年2月25日
全日本民医連会長 肥田 泰


1、08年診療報酬改定の根本的な「限界」
  今回の診療報酬改定は、4回連続(8年間)の0.82%のマイナス改定であり、本体部分のプラス改定も0.38%という極めて低い引き上げである。それを前提にした今回の診療報酬改定は、そもそも今日の医師・看護師不足や病院・病棟閉鎖や倒産、産科・小児科・救急医療の困難など地域医療や医療崩壊の危機を解決できるものではない。今回の改定では、1500億円を「病院勤務医支援」に使ったとしているが、極めて限定的なものであり、病院勤務医の厳しさの解決には程遠いものである。今回の改定に対して、異例にも中医協会長自ら、その財源不足を記者会見で述べているが、08年診療報酬改定とその結果は、マイナス改定という根本的な財源不足の「限界」を改めて実証している。


2、診療所や中小病院に打撃を与える重大なマイナス改定
  今回の改定は、病院(200床以下)の再診料や「10対1入院基本料」の引き上げなどが行われているが、本体部分がプラス改定になるどころか、多くの医療機関、特に診療所や中小病院において本体部分でマイナス改定になっている。地域医療を担っている第一線の医療機関の医療と経営に重大な打撃を与え、今日の地域医療や医療崩壊の危機をさらに深刻化させるものである。特に、(1)外来管理加算の算定要件の制限(5分間ルール等)(2)デジタル映像化処理加算の廃止(3)検査判断料などの引き下げ(4)軽微な処置料の廃止(5)病棟ADL加算の廃止などリハビリ料の大幅な引き下げ(6)入院時医学管理料の見直しによる引き下げ(7)処方せん料の引き下げ(8)療養病棟入院基本料の引き下げなどが、診療所や中小病院に本体部分でマイナス改定の打撃を与えている。その影響は、収益比で大幅なマイナス改定の試算であり、重大である。
  さらに、調剤報酬においてもプラス0.17%改定と発表されているが、実際は薬剤服用歴加算(22点)と特別加算(22点)が30点に一本化されたため、これまで旺盛に薬歴管理や服薬指導を行っていた薬局にとってはマイナス改定になる事態となり、本末転倒な改定となっている。


3、08年診療報酬改定の特徴と医療「構造改革」路線の推進
  今回の改定は、今年4月から全面的に実施される医療「構造改革」路線(医療費8兆円抑制政策)を推進するための一体的な改定になっていることである。
  その特徴の第一は、DPC病院の拡大や「後期高齢者診療料」の新設、「1手術当たりの支払い方式」の導入など医療費抑制政策を促進する診療報酬の「包括化」に大きく踏みだし推進していることである。
  第二は、病床削減と病院の再編成へ向けて「集約化・重点化」を一層推進していることである。医療療養病床入院基本料の引き下げと合わせ、「療養病床から転換した介護老人保健施設」における医療の拡大を行い、療養病床の削減と老健施設への転換を誘導している。また、新たに「地域中核病院」を診療報酬上に位置づけ、新たな要件の「地域中核病院」の「入院時医学管理加算」を大幅に引き上げている。新医療計画の軸になる「地域中核病院」へ向けて、その「重点化・集約化」の誘導であり、地域における急性期病院の淘汰・再編を迫る改定である。一方で200床以下の中小病院に対して、「亜急性期病床」の緩和・拡大を行っている。これは、急性期後の入院機能や在宅医療の支援機能の強化など今後の民間中小病院の方向を示しており、改善の課題もあるが、注目する必要がある。
  今回の改定で「障害者施設等入院基本料」の算定要件から「脳卒中の後遺症患者及び認知症の患者」が除外された。この入院基本料は、疾病の原因にかかわらず、重度の身体障害者に対する看護労働の評価である。特に、脳卒中後遺症の患者は、重篤な肺炎等になる場合が多く、「障害者等病棟」の疾患対象から除外することは、その受入先がなくなり、重大である。
  第三は、診療報酬上、初めて「医療ニーズ」や「質」の「評価」が導入されるとともに引き下げられたことである。今回、「7対1看護」届出病院に対する「看護必要度」の導入や回復期リハ病棟における「在宅復帰率」や「重症患者の受入割合」、そして「重症患者回復病棟加算」を導入している。また、点数化されていないが、医療療養病棟等への「医療の質の評価へ向けた取組の推進」を位置づけ次回改定での具体化を示している。今回の「看護必要度」は、診療科等の乖離も大きく、病棟の看護の必要性や多忙度を測る指標としては、十分な検証もなく、拙速に導入すべきでない。また、現場の看護は、調査表の記入に多くの時間を費やすものであり、過酷な労働現場の軽減と逆行している。回復期リハにおける「質」の評価は、「二つの入院料」と「回復病棟加算」の三段階に編成されている。「回復期リハ病棟入院料II」は、現行よりも大きく引き下げ、「回復期リハ病棟入院料I」+「回復病棟加算」とでは、145点の格差を設けている。
  第四は、「後期高齢者」の医療費を抑制するために、新たな点数の設定が行われたことである。具体的には、(1)外来における「後期高齢者診療料」の導入(2)終末期も含めた在宅医療の強化(3)退院促進の医療連携の強化などである。不充分であるが、12年ぶりの訪問看護料の引き上げや在宅と外来、入院の医療連携上欠かせない多職種間の労働に対する評価は当然である。しかし、新たに設定された「後期高齢者診療料」の包括化は、複数受診や医療内容の制限など後期高齢者の医療に差別を持ち込むものである。また、療養病床や施設、在宅医療など地域に退院後の受け皿の整備が追いついていないなかで、入院医療から在宅医療と居住に強引に誘導する施策は、「医療難民」「介護難民」を生み出す側面もあり、重大である。厚労省官僚が、後期高齢者医療費制度のねらいについて、「医療費が際限なく上がっていく痛みを自分の感覚で感じ取っていただくこと」と言明しているが、許し難いことである。四野党が共同し「廃止法案」を提出したが、改めて後期高齢者医療制度の中止・撤回を強く要求する。


4、診療報酬の大幅な引き上げの再改定と「社会保障費1.1兆円削減」の撤回を
  08年診療報酬改定は、今日の医療崩壊の危機を根本的に打開できない「マイナス改定」であるとともに、多くの医療機関、特に診療所や中小病院では、本体部分でもマイナス改定の重大な影響を与えるものである。地域医療を守り、医療崩壊の危機を打開するために、直ちに診療報酬の大幅な引き上げの再改定が必要である。特に、「社会保障費1.1兆円削減(年間2200億円削減)」の閣議決定は、今回の「マイナス改定」の根源になっている。今日、診療報酬引き上げの財源確保には、その「閣議決定」の撤回が、焦眉の課題であり、改めて強く要求する。最近、国民の世論と運動が反映し、福田首相は、国会において社会保障費の「抑制に限界」と答弁し始めているが、明らかに消費税増税をねらったものでもある。民医連の「医療介護再生プラン(案)」でも明らかにしているが、消費税は、逆累進制が高く、社会保障目的税にすれば、際限なく消費税を引き上げることにもなり、社会保障の財源としては不適切であり、断固反対である。

以上


 「08年診療報酬改定とその結果は、マイナス改定という根本的な財源不足の「限界」を改めて実証している。診療所や中小病院に打撃を与える重大なマイナス改定である。」という認識に同意する。


 08年改定の特徴を、4つに分類し、分かりやすく説明している。
(1)医療費抑制政策を促進する診療報酬の「包括化」に大きく踏みだし推進していること:
 ・  DPC病院の拡大
 ・ 「後期高齢者診療料」の新設
 ・ 「1手術当たりの支払い方式」の導入など
(2)病床削減と病院の再編成へ向けて「集約化・重点化」を一層推進していること:
 ・ 医療療養病床入院基本料の引き下げ
 ・ 「療養病床から転換した介護老人保健施設」における医療の拡大を
 ・ 新医療計画の軸になる「地域中核病院」の「重点化・集約化」の誘導
 ・ 200床以下の中小病院に対して、「亜急性期病床」の緩和・拡大
 ・  「障害者施設等入院基本料」の算定要件から「脳卒中の後遺症患者及び認知症の患者」の除外
(3)診療報酬上、初めて「医療ニーズ」や「質」の「評価」が導入されるとともに引き下げられたこと
 ・ 「7対1看護」届出病院に対する「看護必要度」の導入
 ・ 回復期リハ病棟における「在宅復帰率」や「重症患者の受入割合」、そして「重症患者回復病棟加算」を導入
 ・ 医療療養病棟等への「医療の質の評価へ向けた取組の推進」を位置づけ次回改定での具体化
(4)「後期高齢者」の医療費を抑制するために、新たな点数の設定が行われたこと
 ・ 外来における「後期高齢者診療料」の導入
 ・ 終末期も含めた在宅医療の強化
 ・ 退院促進の医療連携の強化


 本ブログでも、回復期リハビリテーション病棟に対する「質の評価」の危険性に対し、繰り返し述べてきた。全日本民医連声明にもしっかりと位置づけられており、勇気づけられる。
 おしむらくは、スピードの遅さである。本声明は、2008年2月25日に出された。ホームページ上に掲載されるまで、約3週間かかっている。迅速な対応を事務局にお願いしたい。