看護必要度の弊害(まとめ)

 看護必要度には、少なくとも5種類ある。
 「看護必要度 第2版」を読んでのエントリーで取りあげたのは、次の3つである。

 「重症度に係る評価票」は2002年度から、「重症度・看護必要度に係る評価票」は2004年度から、診療報酬算定に関する基準として既に導入されている。


 2008年度診療報酬改定にあたって導入されるのは、次の2種類である。

 前者に関しては7対1入院基本料の基準の見直しと看護必要度で、後者に関しては回復期リハビリテーション病棟入院料Iの施設基準で紹介した。
 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」に関しては、「重症度・看護必要度に係る評価票」調査結果と7対1入院基本料で次のような疑問を提示した。

 「重症度・看護必要度に係る評価票」のA得点は7対1入院基本料病棟の方が高得点である。しかし、10対1入院基本料病棟との差はない。
 一方、B得点に関しては、どの項目をとってみても7対1入院基本料病棟より13対1入院基本料病棟の方が看護必要度が高くなっている。


 以上の結果より、次のような推論が可能である。
(1) ハイケアユニット用「重症度・看護必要度に係る評価票」が一般病棟の看護必要度にも通用する。実際に看護師配置数を増やすべきなのは、現時点で7対1入院基本料を算定している比較的規模の大きい病院ではなく、高齢者で要介護者が多い13対1入院基本料算定中小規模病院である。
(2) ハイケアユニット用「重症度・看護必要度に係る評価票」は一般病棟の看護必要度適用に際し不適切である。7対1入院基本料を算定病棟の看護必要度は本当は高い。別の評価票を用いる必要がある。


 おそらく、前者が正しいのだろう。いずれにせよ、どのように加工しようとも、「重症度・看護必要度に係る評価票」の項目を用いて、7対1入院基本料算定病棟を絞り込むことは不適切である。


 回復期リハビリテーション病棟用「日常生活機能評価」にいたっては、目的外使用としか言いようがない。
 「看護必要度」とは、「入院患者に提供されるべき看護の必要量」をいう。「看護必要度」を正確に把握し、適切な看護師配置を評価するために用いられる。いわば、科学的根拠に基づく要員管理のツールであり、主体は看護職である。どの程度看護師にとって負担がかかるかという視点でデータが集められている。したがって、「看護必要度」を患者の重症度評価のように扱うことは、誤りである。
 リハビリテーション医療の世界には、FIMやBIなど、信頼性・妥当性が確認された評価法がある。FIMには特許の問題があるが、BIなら使用できる。ハイケアユニットを対象とした「重症度・看護必要度」の一部分(B得点)のみを取り出して、「日常生活機能評価」と名前を変え、回復期リハビリテーション病棟の重症度評価に使用することには無理がある。さらにいうと、「移動」の部分が3段階評価から2段階評価となっているが、理由について一切記載がなく、恣意的な改変がなされている。


 「看護必要度Ver.3」の著作権は、看護必要度研究会に属している。看護必要度研究会のメンバーは、回復期リハビリテーション病棟用「日常生活機能評価」のような目的外使用にも、恣意的な改変にも何ら抗議をしていない。そればかりか、一般急性期病院や回復期リハビリテーション病棟に「看護必要度」が拡大されたことを成果として誇っている。


 「重症度・看護必要度」の導入と実務対応セミナー <講義+演習>より、引用する。

<開催にあたって>
 これまで、ICUおよびハイケアユニット入院管理料には看護必要度の項目を用いた評価が行なわれていましたが、08年度診療報酬改正によって、一般急性期病棟においても「7対1入院基本料」の算定のための要件となり、さらに回復期リハ病棟においても、看護必要度による評価が加算の必須要件となりました。このように看護必要度の評価項目を用いた患者評価は、ますます重要になってきています。
 そこで、すでに看護必要度の評価者研修を受けられた看護管理者の方々を対象に、看護必要度をどのように看護管理に活かすかという看護必要度による患者データの評価と、その利用のための看護管理者研修を行うことを計画しました。
 本セミナーは、看護必要度による評価方法の研修を修了した方々に対して、看護必要度データの解釈と、その活用方法に関する初めてのアドバンスコースとして看護管理者を対象に実施します。どうぞ皆様のたくさんのご参加をお待ちしております。


 医療はチームで行うものであり、主体は患者である。「看護必要度」を用いて評価できるのは、看護師配置についてだけである。しかも、開発過程からわかるように、調査対象となった病棟は、「看護の質が高い」急性期病院のICU、ハイケアユニット、そして急性期病棟であり、回復期リハビリテーション病棟や療養病棟を対象としたデータは収集されていない。


 看護必要度研究会は、「看護必要度」であらゆる種類の病棟の管理ができるという幻想を捨て去るべきである。このままでは、看護師による研究は恣意的で非科学的なものである例証として、後世にまで伝えられることになる。