リハビリテーション医療の打ち切り制度撤廃運動(2006年)

 2006年4月8日、朝日新聞「私の視点」に、多田富雄先生の訴え診療報酬改定 リハビリ中止は死の宣告が掲載された。疾患別リハビリテーション料算定日数上限設定に対し、その非人間性を痛切に批判した内容だった。
 リハビリテーション診療報酬改定を考える会(会長 多田富雄先生)が作られ、リハビリテーション医療の打ち切り制度撤廃運動が展開された。請願書名内容をご紹介する。

厚生労働大臣 川崎 二郎 殿
全てのリハビリテーション対象者にリハビリテーションの継続と機会を求める請願署名


【請願趣旨】

 平成18年4月の診療報酬改定で設けられたさまざまな制限により、この制限からはずれた対象者は、たとえ医学的に必要であっても、リハビリテーション医療の保険診療が全く受けられなくなりました。 
 たとえば、意識障害や重度の合併症等により、本格的なリハビリテーション医療の開始が遅れた場合でも、今回の改定では、原則として発症後最大180日でリハビリテーション医療が打ち切られてしまいます。高齢者では、リハビリテーションの中止により、寝たきりなどのより深刻な状況に陥る例が確実に存在します。リハビリテーション医療の継続により、回復が見込まれる場合であっても、厚生労働大臣が定める除外規定以外の疾患では、一律に日数のみでリハビリテーション医療が打ち切られてしまいます。
 また保険診療を必要とする国民は、医療費の自己負担割合の増額ですでに多額の経済的な犠牲を払っております。これに重ねて、障害のために経済的弱者となった患者が、打ち切り後のリハビリテーション医療を自費で負担することはできません。
 リハビリテーション医療の継続がなければ、それを必要とする患者において、生活能力の低下や要介護度の重度化を招くことは必至です。
 よって次の項目を請願いたします。


【請願項目】

 保険診療下で認められるリハビリテーション医療の最大180日までという期限(算定日数上限)を撤廃し、個々の患者の必要性に応じて、リハビリテーション医療を提供できるように条件を変更すること。


 請願書名は、わずか1.5ヶ月で最終的に48万人もの数に達した。2006年6月30日、厚労省に署名を提出した時の声明文を引用する。

声明文


 本年4月の診療報酬改定では、必要に応じて受けるべきリハビリ医療が、原則として、発症から、最大180日に制限されてしまいました。個々の患者の、病状や障害の程度を考慮せず、機械的に日数のみでリハビリを打ち切るという乱暴な改定です。それも、国民にほとんど知らされることなく、唐突に実施されてしまったのです。


 障害や病状には,個人差があります。同じ病気でも、病状により、リハビリを必要とする期間は異なります。また、リハビリ無しでは、生活機能が落ち、命を落とすものもいます。障害を負った患者は、この制度によって、生命の質を守ることが出来ず、寝たきりになる人も多いのです。リハビリは、私たち患者の、最後の命綱なのです。必要なリハビリを打ち切ることは、生存権の侵害にほかなりません。
 こうした国民の不安に対して、除外規定があるから問題はない、と、厚労省は言います。しかし、度重なる疑義解釈にも関わらず、現場は混乱するだけで、結果として大幅な診療制限になっているのです。
 このままでは、今後、リハビリ外来や、入院でのリハビリが崩壊し、回復するはずの患者も、寝たきりになる心配があります。リハビリ医療そのものが、危機に立っているのです。
 さらに、厚労省は、医療と介護の区別を明確にした、と言います。しかし、医療のリハビリと、介護のリハビリは、全く異質なものです。介護リハビリでは、医師の監視のもとで、厳格な機能回復、維持の訓練のプログラムを実施することは出来ません。


 リハビリは、単なる機能回復ではありません。社会復帰を含めた、人間の尊厳の回復なのです。リハビリ打ち切り制度は、人間の尊厳を踏みにじるものです。


 私達、リハビリ診療報酬改定を考える会は、この、打ち切り制度の撤廃をめざして、5月14日から、全国で署名活動を行いました。その結果、わずか40日余りで、40数万人もの署名を集めることができました。これは国民の300人に一人が署名したことになります。
 この、国民の声は、もはや圧殺できるものではありません。
 厚労省は、非人間的で、乱暴な、この、制度改定を謙虚に反省し、リハビリ打ち切り制度を、白紙撤回すべきであります。私達は、これを、強く要請します。

平成18年6月30日
リハビリ診療報酬改定を考える会・代表  多田富雄


 この運動は国民の関心を呼んだ。翌2007年度、2年に1回という改定スケジュールからすると、異例中の異例というしかない疾患別リハビリテーション料診療報酬改定が実施された。