激震1−介護保険見直し(2006年)

 2006年度、以下の3つの改定が同時に施行され、日本中に激震が走った。

介護保険見直し】
 2005年6月、介護保険法改定に関する法律が成立した。施設給付の見直しは、2005年10月より、その他は2006年4月より施行された。
 介護保険法改定のポイントは大きく5つだった。1つ目は予防重視型システムへの転換、2つ目は新たなサービス体系の確立、3つ目はサービスの質の向上、4つ目は施設給付の見直し、5つ目は負担のあり方・制度運営の見直しである。
 このうち、最大の眼目である予防重視型システムについて述べる。

# 予防重視型システムへの転換
 「新・予防給付」と「地域支援事業」の創設が柱となった。
 「新・予防給付」の対象者は、介護認定審査会で決定される。これまでの要支援は要支援1と名称が変更された。「要介護1相当」と判断されたものは要支援2と要介護1とに区分された。心身の状態が安定しない状態、ないしは、認知機能の障害などにより「新・予防給付」の利用に係る適切な理解が困難である状態では、要介護1と認定され、残りが要支援2となった。
 「新・予防給付」のケアマネジメントは新設される「地域包括支援センター」で主に担われることになった。また、要支援・要介護状態になる前からの介護予防が重要であるとの視点から、老人保健事業、介護予防・地域支え合い事業を見直し、効果的な介護予防サービスを提供とする「地域支援事業」が創設された。「新・予防給付」は、現行サービスの内容や提供方法を見直して提供されることになった。通所介護や通所リハは、介護予防通所介護・介護予防通所リハという名称となり、運動器の機能向上に関するサービスの導入を含め、個別プログラム(筋力向上プログラムなど)を重視したサービスに再編された。
 「地域包括支援センター」は、(1)介護予防事業のマネジメント、(2)介護保険外のサービスを含む、高齢者や家族に対する総合的な相談・支援、(3)被保険者に対する虐待の防止、早期発見などの権利擁護事業、(4)支援困難ケースへの対応などケアマネジャーへの支援、の4つの事業を地域において一体的に実施する役割を担う中核拠点として設置された。「地域包括支援センター」の設置者は市町村、ないし、「地域支援事業」の実施の委託を市町村から受けたものである。保健師社会福祉士、主任ケアマネジャーの3職種が中心スタッフであり、人口15,000人から30,000人に1ヶ所の設置が想定されていた。この場合、介護予防事業対象者は150人から300人となるはずだった。


 「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」より、居宅サービスの状況のグラフを引用する。要支援、要介護1など介護度が低い利用者は、訪問看護通所介護、通所リハビリテーション、そして、福祉用具貸与等のサービス利用がほとんどであった。
 「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」より引用する。

# 廃用症候群の対策の重要性


○  後期高齢者に多い衰弱を含め、高齢者の心身機能の低下は、「年だから仕方がない」などと考えがちであるが、これは、実は廃用症候群であったことが見逃されていたことが少なくない。今後は十分に認識される必要がある。


○  廃用症候群は、在宅や施設での原疾患の急性期から慢性期にわたる治療や療養において、本来必要である以上の安静(過度の安静)の指導がなされたり、また、早期離床や早期の日常生活活動の向上のための取組がなされなかったことなどによって生じる。このためにも廃用症候群の原因となる入院(所)中の「過度の安静」を防止するために、これまで医療機関で日常的に使用されてきた入院者への評価である「安静度」という用語を見直し、「活動度」に変更する必要がある。


○  医療現場に限らず、介護の現場においても、「かわいそうだから何でもしてあげるのが良い介護である」、あるいは「安全第一」という考え方で過剰な介護をして、かえって廃用症候群を惹起する場合がある。


 (つくられた寝たきりとつくられた歩行不能
○  車いすには利用者の参加の拡大につながる一面があることは確かである。しかしながら、訓練のときは歩けるのに、実用歩行訓練が不十分なまま、実生活では車いすを使わせたり、歩行ができるのに車いす介助で移動させるなど不適切かつ尊厳に欠けるような車いすの使用がなされる場合がある。「つくられた寝たきり」「座らせきり」は、多くの高齢者のケアの関係者に理解されている。しかし、このような高齢者の状態像に合わない車いすの使用などによる「つくられた歩行不能」については、いまだその危険度が十分に認識されていない。歩行や、立って活動を行うことが困難になると、在宅での日常生活の活動が低下し、地域社会への参加も難しくなる。今後は、歩行しないことによる廃用症候群の危険性について、予防・医療・介護の関係者はもとより、高齢者自身やその家族は十分に認識する必要がある。


 (つくられた家事不能
○  また、例えば、調理などの家事を行う能力があるにもかかわらず、訪問介護による家事代行を利用することにより、能力が次第に低下して、家事不能に陥る場合もある。このような状態を防ぐためには、身の回りの行為だけでなく、調理を含めた家事や外出などの生活活動全般への働きかけを積極的に行う必要がある。


# 介護予防の数値目標
 全国介護保険担当課長会議(平成17年6月27日)第3期介護保険事業(支援)計画等について(別冊)資料1の1−8ページより、介護予防の数値目標を引用する。

  • 地域支援事業を実施した高齢者の20%について、要支援・要介護状態になることを防止。
  • 要支援・要介護1の人数の10%について、要介護2以上へ移行を防止。

 具体的には、下記表のような値を目指している。2014年には、要介護車は合計640万人になり、2004年の410万にの1.5倍以上になると予想されている。そのうち半数を要介護2−5が占めると予想されている。介護予防にて要介護2−5を320万人から290万人に減らすことが目標である。


# 予防重視型システム実施で介護予防は可能か?

 介護保険見直しには、2つの重要な視点が欠落している。
(1)リハビリテーション前置主義からの批判:
 「寝たきり」は病院でつくられる。しかし、2006年度診療報酬改定で実施された療養病床削減+リハビリテーション医療後退で、リハビリテーションを受けることができない患者が増える。その結果、重度要介護者が増加する。
(2)健康格差社会(近藤)からの批判:
 社会経済的要因が健康に悪影響を及ぼす。現在の医療・介護政策は健康における不平等を拡大している。下記著書参照。

健康格差社会―何が心と健康を蝕むのか

健康格差社会―何が心と健康を蝕むのか

検証「健康格差社会」―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査

検証「健康格差社会」―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査

 介護保険見直しから2年が過ぎた。この2年間にどのようなことが生じたか検証が必要である。要介護認定者は減ったのかひとつをとっても判断は難しい。介護認定審査会で実際の介護認定ソフト結果をみる限りでは、以前のソフトより明らかに要介護認定が低く出ている。実態は変わらなくても、要介護認定者が減ったという結果が出ることも考えられる。また、介護保険支出の伸びが鈍化したと言われている。しかし、必要な介護サービスが受けられなかった結果だとすると、「介護の社会化」という理念からして問題がある。必要な福祉用具貸与が受けられず、やむをえず介護用ベッドや車椅子を自費で購入する例もある。「特定高齢者」の選定基準が厳しく、「地域支援事業」対象となる高齢者がいないという事態も生まれている。地域包括支援センターの求められる本来の機能を発揮しているのかという視点からも検討する必要がある。


 はっきりしていることが一つある。介護予防事業を本気で行うとしたら、介護保険費だけでなく、医療費も増大も避けられない。しかし、この間一貫して行われてきた社会保障費削減のもとでは、介護予防は既に絵に描いた餅になっている。介護費用切り下げと書類増加に伴い、現場スタッフの疲弊は激しい。コムスン事件にみられるように、モラルハザードも生じてきている。
 介護保険制度の「持続可能性」を高めるためという名目で行われた制度改革は、利用者と現場に犠牲をしくものとなった。