自治体病院 医療の泉 枯らさぬ工夫こそ

 伊関友伸先生のブログより、朝日新聞の私の視点に「自治体病院 医療の泉 枯らさぬ工夫こそ」という題で投稿しました。をご紹介する。

自治体病院 医療の泉 枯らさぬ工夫こそ
朝日新聞 2008年1月31日
私の視点)伊関友伸・城西大准教授「地域の医療崩壊、防ぐ住民力」★★


 全国で自治体病院医療崩壊が続いている。


 北海道・夕張市では市立病院が39億円の一時借入金を抱えて経営が破綻した。京都府舞鶴市民病院は、かつて全国屈指の充実した研修で知られていたが、常勤の医師が全員退職、混乱は現在も続く。


 私は病院経営アドバイザーとして夕張の医療再生に携わり、今もいくつかの自治体病院のお手伝いをしている。現場で感じるのは、自治体病院のほとんどが役所の一部門として扱われ、「経営」が存在しないことだ。権限を、現場ではなく本庁の人事や財政当局が握り、経営や医療の質よりも、形式や規則が重視される。


 医療費抑制の国策のもと、民間病院の生き残り競争は激しさを増す。だが、自治体病院は意思決定が遅く、時代に追いつけない。宮城県石巻市にあった公立深谷病院は抜本的な経営改革ができずに、金融機関から運転資金の融資を拒絶され、民間譲渡された。


 最近は、医師不足による収入減が病院経営に打撃を与えている。国の研修制度変更が原因とされるが、医療崩壊を起こしている地域ほど医師たちの立場や気持ちを考えない住民や行政の行動が目立つのも事実だ。


 例えば、宿直を含む連続労働基準法違反の32時間勤務は当たり前といった医師の過酷な労働条件に、行政は問題を先送りするだけ。住民も、昼間は仕事があるからと、コンビニ感覚で夜間に受診し、夜勤の医師を疲弊させる。


 医師の大量退職を招いたある病院では、人口4万7千人の市で、時間外急患者が年間1万人あったという。タクシー代わりの救急車利用、医師へ暴言や暴力もある。意欲を失った医師が病院から立ち去り、地域医療は深刻な打撃を受ける。
 一方、問題解決に取り組むことが、地域再生の契機となる可能性も感じている。
 兵庫県丹波市では、母親らが結成した「県立柏原病院の小児科を守る会」が、「お医者さんを守ることが、子どもを守ることにつながる」と、子どもの病気について学び、本当に必要な時以外は休日や夜間の受診を慎もうという運動を展開中だ。その結果、深夜の小児科の患者数は大幅に減り、医師の負担は軽減されているという。


 千葉県山武地域では、「NPO法人地域医療育てる会」が、医療関係者と一緒に、住民への啓発活動や若手医師の研修を手伝う試みをしている。医療を提供する側の事情を理解した住民の行動は、医師の退職を防ぎ、病院の経営を改善し、地域医療の底上げに貢献するだろう。


 総務省は昨年末に「公立病院改革ガイドライン」を示し、収支の改善、医師の配置や病床数の見直しなど病院の再編・ネットワーク化、民営化など経営形態の見直しを迫っている。


 確かに改革は必要だ。しかし、単に収益の増加や病床利用率の向上を迫れば、医師のさらなる労働条件の悪化を招き、医師が立ち去った例もある。現場の声をしっかり聞く作業が、改革には不可欠だ。


 医師という医療資源は、泉と似ている。行政や住民が自分勝手に汲み上げれば泉は枯れる。行政は病院経営の質を上げ、住民は医療資源を浪費しない。この条件が揃わないと、自治体病院そして地域医療の崩壊は防げない。


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 著書に「まちの病院がなくなる?! 地域医療の崩壊と再生」