医療構造改革と回復期リハビリテーション病棟

 厚労省第2回 医療構造改革に係る都道府県会議配付資料(平成19年4月17日)事務次官講演資料をご紹介する。ここに、回復期リハビリテーション病棟に関する重要な指摘がある。


 厚労省は、医療費増加の主要因は老人医療費の増加と判断している。そして、1人当り老人医療費は都道府県格差が大きく、最高の福岡県90万円に対し、最低の長野県は60万円であり、30万円の格差があることを指摘している。

  • 1人当り入院医療費の増

 病床数の多さ(平均在院日数の長さ)← 自宅(自宅でない在宅を含む)療養率の低さ

  • 1人当り外来医療費の増

 生活習慣病を中心とする外来受診者の受診行動 ← 内臓脂肪型肥満に起因する生活習慣病患者・予備群の増加


 以上に対して、医療機能の分化・連携、地域における高齢者の生活機能の重視、生活習慣病対策が重要と指摘している。


 今後、団塊の世代が高齢化するにつれ、入院医療費が増える。療養病棟を減らし、入院したくてもできなくなるようにする。フリーアクセスが許されているから、高齢者は病院にかかりすぎる。後期高齢者医療制度を導入し、高齢者担当医を設け、複数の医療機関にかかりにくくする。メタボリックシンドロームを予防するために特定健診を導入する。厚労省が矢継ぎ早に実施している様々な政策の説明がこの1枚のスライドに凝縮されている。


 回復期リハビリテーション病棟は、医療機能の分化・連携と生活機能重視に関わっている。

 医療機能の分化・連携の中心に地域連携クリティカルパスが位置づけられている。


 脳卒中における地域連携のイメージは上記のとおりである。回復期リハビリ機能が明確に位置づけられている。


 「地域における医療機能の明確化や機能分化・連携・情報開示・ITの活用の推進」として、次のようなまとめがある。

# 検討の方向性
◯ 国によるあるべき医療提供体制の姿の明示と診療報酬等様々な取組による実現


◯ 医療連携体制の構築の趣旨
 各医療機関がそれぞれで多くの診療科を持って人材確保を図ることは現実的にも困難
 住民に対し地域で完結した医療が提供できる体制を構築することを目指し、地域の実情に応じて、各医療機関が機能を分担、連携していく
 その分担状況と連携の仕組みを住民に明らかにしていく

◯ 都道府県医療計画による疾病・事業ごと(*)の具体的ネットワークの構築と公表
 (*)がん、脳卒中、急性心筋梗塞及び糖尿病の4疾病、救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療及び小児医療(小児救急医療を含む。)の5事業


◯ 入院医療の方向性
 医療の基本は、できるだけ短期間に集中して治療し、早期に日常生活等に復帰させること
 医療技術の進展等にあわせて、今後更に在院期間の短縮、早期の復帰を進めることが求められる
 各医療機関は、治療の各ステージに合わせて各分野の専門的な医療を提供できるよう、地域において求められている病院機能に応じて、自らの医療機能やそれに応じた人員体制、病床数を検討することが必要


◯ 中小病院及び有床診療所の今後の位置付け
 大病院の急性期を終えた後の回復期リハ、軽度の急性期医療への対応など在宅療養の支援拠点、大病院のない地域での急性期の医療、単科の専門病院機能等


◯ 病院と診療所の機能分化の方向性
 診療所は、一次的な地域医療の窓口として、1)患者の生活管理を含めた日常の生活機能の向上を図るとともに、2)時間外にも連絡が可能であることや必要に応じて往診を行う等急な発症等への対応が診療所相互間の連携あるいは病院との連携によって実現できるようにする
 急性期病院は、原則として入院治療と専門外来のみを基本
 退院後の生活は、再度地域医療が看護・介護サービスとともに受け止め


◯ 医療計画の推進と医師確保対策の関係
 医療機能の分化・連携を推進し、医療提供体制を適切なものとしていく中で、機能の明確化された病院における勤務が専門医の取得等医師のキャリア形成の中で重要視されることになる
 拠点となる大病院だけでなく、周辺の中小病院での勤務も、拠点病院との関係で位置付けられることになる
 機能や特徴の明確な病院には大学からも派遣しやすい
 各医療機関の機能の明確化と連携体制の確保といった医療計画の取組自体が、医師のキャリアパスシステムの構築となり、医師確保対策となるという関係にあることを踏まえた検討が必要


◯ 医療分野におけるITの積極的活用
 健診や診療情報、レセプトデータ等の収集分析、医療機関の情報化やその情報連携、レセプトオンライン化の推進、健康ITカード(仮称)の導入の検討等


◯ 医療供給体制の方向性と診療報酬の体系の関係


◯ 地域住民の参加及び受療のあり方等についての実効性ある啓発・広報

◯ 医療機能の明確化・分化の推進におけるナショナルセンターと地方中核病院との連携
 我が国の医療分野の技術のイノベーションの推進


 「国によるあるべき医療提供体制の姿の明示と診療報酬等様々な取組による実現」とは、あまりにもあからさまな表現である。診療報酬を武器とし、強制的に医療機関の機能分化・連携を推進しようという宣言である。


 回復期リハビリテーションは、「中小病院及び有床診療所の今後の位置付け」の中に、大病院の急性期を終えた後の回復期リハという形で位置付けられている。


 医療費増大の最大の原因は、高齢者増加とそれに伴う在院日数の延長であると厚労省は判断している。したがって、医療費削減のためには、総ベッド数を削減し、在院日数を短縮することを至上命題としている。一方、要介護高齢者が増えては医療費・介護費が増えてしまう。そのために、回復期リハビリテーション病棟は増やす。主な対象は中小病院である。
 医師不足に悩む中小病院にとって、回復期リハビリテーション病棟への移行の最大の障害は、医師の専従要件である。医師の専従要件をはずし、点数も下げられれば、一石二鳥である。おそらく、今回の診療報酬改定の背景にはこのような考え方があるのだろう。


 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会は、これまで次のような主張をしてきた。
 リハビリテーションの理想を実現するためには、スタッフを手厚く配置し、チーム医療を強化すべきである。先進的な取組みをしている病院は基準を超えたスタッフ配置をしている。このような病院が報われるように診療報酬改定実現を目指す。ハイグレード型病院と一般的な回復期リハビリテーション病棟との間に格差をつける。(その場合、基準どおりのスタッフしか配置していない病院は診療報酬を減額されてもやむをえない。)


 しかし、厚労省が提示してきた案には、スタッフの手厚い配置に対する加算はなかった。逆に、専従医要件もはずすという条件で、診療報酬が引き下げられた。プラス因子は自宅退院率、日常生活機能指標に基づく重症患者率・改善度しかなくなっていた。


 回復期リハビリテーション病棟に関しては、厚労省は粗製濫造路線に転換したと私は判断している。全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会の理想主義が裏目に出ている。水面下の交渉に明け暮れている間に、リハビリテーションとは異質のものを押し付けられてしまった。