こうしたら病院は良くなった!(異論部分)

 武弘道先生の著書「こうしたら病院は良くなった!」の書評を続ける。今回は異論部分を中心に述べる。


# 第9章 日本の病院の目指すべき方向

  • 医師は本当に足りないか

 医師の派閥と縄張りはやくざのそれと酷似したところが多い、と具体例を上げ痛切に批判している。そして、昨今話題となっている医師不足現象も、学閥・医局のために医師の流通が悪いからと説明している。

  • 公立病院の整理・統廃合を

 日本の自治体病院の設立時期と自家用車の普及の関係を述べている。そして、自治体病院が盛んに作られた昭和20年代、30年代の病院の診療圏と現在の診療圏は全く変わったものになってきていると述べている。
 どんどん悪化している自治体病院という項では、1965年から2003年までの全国の自治体病院実質赤字額(収益的収入分に入る他会計繰入金+当年度経常損益)をグラフ化して示している。1987、88年の間は全体で2,000億円ぐらいの繰入金を出しておけば、どこの病院も経常収支は黒字だった。しかし、2003年になると、5,451億円繰り入れてもなお932億円の赤字が出ている。そして、自治体自身の財政状況の悪化に伴い、繰入金の増加は今後見込めない状況になっている。
 モータリゼーションの普及により地域医療の「地域」の概念がすっかり変わった。各自治体病院の機能と役割を見直し、自治体病院の整理・統廃合をすることしか21世紀を生き伸びる方策はない、と主張されている。


# 上記内容に対する反論
 医師不足問題は、社会問題になっている。厚生労働省は、医師の偏在が医師不足の原因と主張している。しかし、人口1000人あたり医師数はOECD諸国が平均で2.9人であるのに対し、日本は2人である。医師養成のスピードを考えると、2020年には、トルコ、韓国、メキシコにも追い抜かれ、OECD30国中最下位となってしまう。しかも、日本の医師数は医師免許所持者数を示しており、高齢や病気、結婚・出産などで仕事をしていない医師もカウントされている。
 医師不足の主因は学閥ではない。絶対的な医師不足に陥った最大の原因は、厚労省の医師養成抑制策である。


 モータリゼーションの発達とともに、大規模郊外店舗が増え、中心市街地は空洞化した。自家用車という足を持たない高齢者は取り残されている。
 街の再生を目指し、コンパクトな社会を目指したまちづくりが各地で進められている。高齢者が安心して住み続けられるためには、医療や福祉の充実が不可欠である。今後の高齢者増加を考えると、医療機関の整備も地域に密着して行うことが求められるのではないだろうか。


 日本全体で自治体病院が約1,000あることを考えると、1病院あたり毎年繰入金+経常赤字合計で6.4億円の損失を生じている計算となる。しかし、武先生が示したグラフをみると、赤字額が急速に増えているのは1990年以降であり、医療費抑制政策が徐々に進行した時期と重なる。先進7ヶ国中日本よりGDP比率が低かった英国が大幅な医療費増に乗り出しており、日本が最下位に転落することは確実視されている。
 武先生は、小児科の問題に関しては、解決法は診療報酬の大幅アップしかないと主張されている。しかし、残念ながら、日本の医療費全体を増やす必要があることには言及されていない。


 巨額の税金が投入されていることを考えると、公立病院改革は待ったなしである。本書に記載されている各種改革は当然実施すべき内容ばかりである。しかし、効率の良いと言われる民間病院でさえも倒産件数が過去最高となっている。医師数抑制政策や低医療費政策に目をつむり、財政破綻を理由として急速な改革を実施するようなやり方は、栄養状態が悪い患者に対し緊急手術をする時に似たリスクを負う。基礎体力がある患者(病院)に対して治療(改革)を行うならば、多少のリスクがあっても転帰は良好となるだろう。問題は、小規模自治体にある200床以下の中小病院である。公立病院改革の結果、医療機関がなくなり、医療崩壊と地域崩壊の連鎖が生じてしまわないことを祈る。