回復期リハビリテーション病棟と成果主義(まとめ)

中医協での論議

 2007年11月30日、中医協で、回復期リハビリテーション病棟に成果主義を導入するという提案がされた。概要は下記のとおりである。

 現在の施設基準のうち、医師の専従要件を廃止して平均的な点数を1,680点よりも引き下げ、回復期病棟ごとに「質の評価」を行って点数格差を付ける。
 質を評価する基準として厚労省は、(1)在宅復帰率、(2)重症患者の入院率、(3)重症患者の改善率の3つを示している。
 具体的には、(1)「居宅等」に退院する患者が一定の割合以上いること、(2)重症な患者を受け入れていること、(3)重症な患者の退院時の日常生活機能が一定程度以上まで改善されていることとしている。

 在宅復帰率に関しては、自宅と有料老人ホームを合わせて70〜75%に設定することが予想される。
 重症患者の評価には、「ハイケアユニット入院医療管理料」で用いられている「重症度・看護必要度」の一部分(B得点)が、「日常生活機能指標」と名前を変え用いられようとしている。計13項目20点満点中10点以上を重症とする案が出されている。重症患者率は20%を軸に今後議論される。退院時の改善率をどのように評価するかも課題となっている。各委員から、評価の基準については再検討を求める声が相次いでいる。


厚労省案の問題点】

(1)在宅復帰率
 厚労省案では、「在宅復帰率」の具体的範囲が著しく狭められる可能性が高い。同様に「在宅復帰率」を条件としている亜急性期入院医療管理料と比べ、回復期リハビリテーション病棟の「質の評価」基準はかなり厳しい。居宅等への復帰率が6割→7割へと引き上げられる一方、居宅等の範囲から介護施設が除外される。
 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会は、毎年9月に調査を行い、約1万名のデータを集めている。その結果出された自宅退院率65.3%(2006年)という数字と比較すると、厚労省の参考資料にある75.1%という数字は、全国データから解離している。「在宅復帰率」70%というラインが設定されると、6割前後の回復期リハビリテーション病棟が「質の評価」の適応にならず、低い診療報酬に甘んじることになる。


(2)「日常生活機能指標」の使用
 「看護必要度」とは、科学的根拠に基づく要員管理のツールとして開発された。ハイケアユニット評価として用いられる「重症度・看護必要度」基準は、看護師の業務負担という視点でデータが集められている。調査対象となった病棟は、「看護の質が高い」急性期病院のICU、ハイケアユニット、そして急性期病棟であり、回復期リハビリテーション病棟や療養病棟を対象としたデータは収集されていない。
 内容面でみても、代表的ADL項目である排泄、入浴、階段昇降が評価されないという欠陥がある。床上安静の指示の有無を問う項目、どちらかの手を胸元まで持ち上げられるという項目が含まれており、患者の障害像を把握し自立を目指した援助をしていくリハビリテーション医療の視点と明らかに異なる。ハイケアユニットを対象とした「重症度・看護必要度」の一部分(B得点)のみを取り出して、「日常生活機能指標」と名前を変え、回復期リハビリテーション病棟の重症度評価に使用することには無理がある。


【医療に成果主義を持ち込むことは妥当ではない】

 在宅復帰率は、種々の要素で修飾される。自宅退院には、退院時のADL、同居家族数などの介護力が関係する。当初からADLが高い群は、リハビリテーション効果が期待でき、自宅退院率が向上する。しかし、ADLが低い群は、たとえ伸びしろが多くても最終到達度が低い。このため、自宅退院が困難となる。また、同じようなADLでも介護力がないと介護施設入所となることは、日常よくみかける現象である。
 患者側の因子を無視し、在宅復帰率のみで「医療の質」を評価すると、回復期リハビリテーション病棟運営に歪みが生じる。
 成果主義が導入されると、開始時ADLが低く介護力がない患者は、自宅退院率を引き下げるという名目で選別される可能性が高くなる。算術が得意な回復期リハビリテーション病棟だけが残り、適応があれば重症患者も受け入れている病院がつぶれかねない。
 重症患者の受け入れを妨げないようにすると厚労省は主張する。しかし、重症患者の改善率を評価する指標として使用されようとしている「日常生活機能指標」は、リハビリテーション医療とは無縁のものである。患者の重症度、改善率を測定するツールとしては不適切である。

 患者側の要素が「医療の質」の評価に影響を与えることは、他の医療分野でも同様である。例えば、悪性腫瘍の生存率比較に際し、早期癌と進行癌の割合や年齢構成を無視し、数値だけを単純に比較することは実態を見誤ることにつながる。多種多様な患者要素を配慮せず、元データのみで成果を判断することは、医療の発展を阻害する。

 適応があっても患者選別のため不十分な医療しか受けられない患者が増えることは、医療経済的にも妥当ではない。重篤な患者や要介護者が増えると、医療費・介護費用が増大するという悪循環が生じる。目先の医療費削減にとらわれ医療へのアクセスを制限することは、めぐりめぐって国家財政を圧迫する。

 医療崩壊を防ぐ最も効果的な方法は、医療費削減政策をやめることである。成果主義の名の下に、ある部分を削り、別のところに補填するというやり方は、矛盾を広げるだけである。