要介護傾向の高齢者被災地で急増

 http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201302080598.htmlという記事が載った。どうやら、この記事は「東日本大震災被災者の健康状態に関する調査研究 石巻市雄勝・牡鹿地区の被災者の健康状態」の調査結果公表 |報道発表資料|厚生労働省の続報をまとめたもののようである。高齢者結果(PDF:KB)の中に、2011年6月〜8月に石巻市雄勝・牡鹿地区の高齢者に対して実施した結果がまとめられている。残念ながら、厚労省の報道発表を探したが、朝日新聞の記事となった調査結果はネット上には出されていなかった。


 新聞報道の内容をまとめると、次のようになる。
<高齢者>
# 「今後、介護が必要な状態になる可能性が高い」と判定された人

  • 65歳以上の高齢者990人のうち43.9%であり、震災直後の27.1%より悪化。
    • 75歳以上女性では、38.1%→61.2%と悪化。
    • 75歳以上男性では、30.6%→52%と悪化。

# 「遠くへも一人で歩いている」

  • 72.9%→55.6%と悪化。

# 「時々横になっている」、「ほとんど横になっている」

  • 3%→8.9%と悪化。


<住民全体>
# 不安や抑うつ症状

  • 7%→4.7%と改善するも、全国値の3%を上回る。

# 不眠症の疑い

  • 42.3%→35.5%と改善。


 調査を担当した辻一郎教授(東北大公衆衛生学)は、「高齢者は働く機会が少なく、生活が不活発になっている。このままでは被災地で介護が必要な人が増える。」と述べている。


 同様の結果が南三陸町でも報告されている。大川弥生*1の報告をみると、次のような記載がある。
 「7ヶ月目に南三陸町で全町民のICFに基づく生活機能の実態調査を行い(回答者 12,652人、回収率83.9%、高齢者では90.1%)、その結果は、非要介護認定高齢者3,331人の4分の1近く(23.9%)で歩行困難が出現し、回復しないままであった。」
 「調査時の住居の種類による違いも大きく、仮設住宅ではほぼ3割(町内31.8%、町外30.2%)、自宅生活者でも、直接的な津波の被災地で21.3%、直接被災していない地域でも14.3%に、7ヶ月後でも低下が続いていた。仮設住宅で起きやすいだけでなく、自宅生活の人にも、しかも津波の直接的な被害のなかった場所でも起こっていることは注目される。」


 宮城県、特に沿岸部、リハ資源が極めて乏しい地域である。 医療機関の医療情報センター | ウェルネス > 運営サイト/コンテンツ > 2次医療圏データベースシステム ダウンロードに、無償の2次医療圏データベースシステムが公開されている。この中の、「2次医療圏基礎データ(巧見さん)Ver4.0.1.xls」を用いて、宮城県リハビリテーション資源を可視化する。


# 回復期リハビリテーション病棟
 平成23年12月全国回復期リハ病棟連絡協議会に基づくデータを見ると、回復期リハビリテーション病棟人口10万対比は全国平均で48.2となっている。ゼロ(灰色)、25未満(青)、25〜50(緑)、50〜75(黄)、75〜100(橙)、100以上(赤)で示した。


 石巻医療圏は全国平均を上回っているが、仙台医療圏は平均以下である。気仙沼医療圏は空白地域となっている。


 人口10万人あたり療法士数を、25%タイル未満(青)、25〜50%タイル(緑)、50〜75%タイル(黄)、75%タイル以上(赤)で示す。出展は、平成22年10月1日病院報告である。なお、最新データである平成23年病院報告のデータは、病院報告 平成23年病院報告 閲覧(閲覧表) 二次医療圏(従事者票) 年次 2011年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口にある。


# PT
 PT10万対比は、平均値37.1である。最小値3.6、25%タイル値25.6、50%タイル値34.5、75%タイル値47.9、最大値171.5である。


# OT
 OT10万対比は、平均値24.0である。最小値0.0、25%値15.5、50%値22.3、75%値32.4、最大値141.8となっている。


# ST
 ST10万対比は、平均値7.5である。最小値0.0、25%値4.4、50%値6.6、75%値9.6、最大値37.2となっている。


 宮城県全体で、PT・OT・STいずれも全国の中央値を下回っている。


 東日本大震災は、高齢化が進む医療過疎が深刻な地域に生じた広域災害である。リハビリテーション資源も同様に著しく不足している。虚弱高齢者が生活不活発な状態におかれ、生活機能悪化の悪循環から抜け出せない状況になることが危惧される。震災関連障害の予防は、震災関連死と同様、被災地医療の重要なテーマとなっている。

新病院起工式

 東日本大震災時に大破した外来棟跡地に、新病院を建設することになった。本日、起工式が行われた。

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 震災後、はや1年9ヶ月が過ぎた。外来棟の取り壊しが完了してから数えると1年近くが経つ。この間、新病院建設に向けての高層論議医療施設近代化施設整備事業について - 宮城県公式ウェブサイト申請、独立行政法人福祉医療機構 | WAM利用などを行ってきた。震災後の高騰する建築費のため、入札が不調に終わることも危惧された。様々な難関を乗り越えて、漸く本日起工式を執り行なうことができた。
 起工式は、一般的には地鎮祭という。余震が散発するなか、地の怒りを鎮め、無事に新病院が建設されることを心から願う。順調に行けば、2014年の1月に竣工を迎える予定である。

被災3県の震災関連死、2200人を超える

 福島県の震災関連死が1000人を超えたことが報道された。

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 東日本大震災で、福島県の災害関連死者数が1104人(9月14日現在)に上ることが3日、県の調べで分かった。宮城県の799人(8月末現在)の約1.4倍、岩手県の305人(同)の約3.6倍に当たる。福島第1原発事故に対する精神的な不安や断続的な避難場所変更の影響があったとみられる。

http://www.kahoku.co.jp/news/2012/10/20121004t65019.htm


 2012年3月31日時点でのデータは、復興庁 | 震災関連死に関する検討会東日本大震災における震災関連死に関する報告の中にある。


 河北新報記事のデータをみると、被災3県の震災関連死数は次のように変化している。

 2012年3月末  最新データ
 岩手県  193  305(8月末)
 宮城県  636  799(8月末)
 福島県  761  1104(9月14日現在)
被災3県計  1590  2208


 偶然だが、最新データをみると、岩手・宮城両県の合計と福島県がそれぞれ1104人となる。福島県の突出ぶりが目につく。約5ヶ月で、合計618人増加している。審査待ちが多数あり、今後も認定数は増え続けると予測する。


 福島県の各自治体ごとのデータは、お探しのページを見つけることができませんでした。- 福島県ホームページの、平成23年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報(第740報)(Excel:185KB)(24.10.5更新)にある。10月5日のデータであり、震災関連死は1112人とさらに増えている。


 沿岸部市町村の死者数を見ると、次のようになる

直接死 関連死 死亡届等 死者数計
 相馬市  439   17   19  475
南相馬市  525  327  111  963
 広野町   2   26   0   28
 楢葉町   11   66   2   79
 富岡町   18  119   5  142
 川内村   0   49   0   49
 大熊町   11   68   0   79
 双葉町   17   73   3   93
 浪江町  149  195   33  377
 葛尾村   0   16   1   17
 新地町  100   6   10  116
 飯舘村   1   39   0   40
いわき市  293  100   37  430
沿岸部計  1566  1101  221  2888
福島県  1599  1112  221  2932


 直接死も関連死のいずれも、福島県沿岸部に偏在していることが一目瞭然である。南相馬市浪江町富岡町いわき市では震災関連死が100人を超えている。新地町を除き、町村部自治体は関連死の方が直接死より多い。


 東日本大震災における震災関連死に関する報告では、原因を次のように断じている。

 福島県は他県に比べ、震災関連死の死者数が多く、また、その内訳は、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が380人と、岩手県宮城県に比べ多い。これは、原子力発電所事故に伴う避難等による影響が大きいと考えられる。
 宮城県岩手県と違い、福島県浜通りは、原災避難の影響が大きい。地域の病院等の機能が喪失したために多くの患者を移動させることになった。動かしてはいけない状態の人を長時間かけて移動させ、更に別の地域へ移動を重ねるなどの事態となったことが大きいと感じた。


 助かるはずの命が多く失われている。原発事故による直接死はないことを強調する方々に、この数字についてどのような感想をもつか尋ねてみたい。

福島県では国保一部負担金免除打ち切りへ

 岩手県宮城県では全ての自治体で自治国保の一部負担金が来年3月末まで免除となる。一方、福島県では、原発事故警戒区域以外の多くの自治体で打ち切りになることになった。

関連エントリー

 東日本大震災で、国民健康保険に加入する一部被災者を対象としていた国の医療費全額負担措置が、東京電力福島第1原発警戒区域などを除き、9月30日で終了する。10月以降、自治体側が金銭的な負担をして同措置を実質的に継続する市町村には、国が来年3月末までの期限付きで免除額の8割を補助するが、福島県では26市町村が財源不足のため、免除打ち切りを決めた。岩手、宮城両県では全市町村が免除を継続する方針で、福島の被災者からは「同じ被災地なのに不公平」との声が上がっている。

時事ドットコム:医療費免除、福島打ち切りへ=26市町村、国負担終了で−被災3県、岩手・宮城継続 2012年9月29日


 福島県国民健康保険団体連合会 トップページのお知らせ2012/09/28  医療機関等を受診された被災者の方々へ(厚生労働省からのお知らせ)には、「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う警戒区域等に該当する、広野町楢葉町富岡町川内村大熊町双葉町浪江町葛尾村飯館村では、窓口負担の免除を受けることができる期限は、平成25年2月28日まで」、という趣旨の記載がある。


 http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/f24bd86edc73c942685e7b0a93bfd2c1/をみても、次のような記載がある。

 医療費の一部負担金や介護サービスの利用料については、岩手県宮城県の全市町村が全額免除を2013年3月末まで続ける一方で、福島県内では福島市いわき市郡山市など26市町村が9月末で免除措置を打ち切る。


 国保では保険料の滞納が続いた場合、医療機関の窓口でいったん医療費の全額(10割)を支払わなければならないことから、必要な医療が受けられなくなる事態も危惧される。一部負担金免除打ち切りも、避難生活で家計が火の車の住民にとっては大きな問題だ。


 大災害時には、生活環境の激変、収入の減少などの社会的因子や、ストレス、うつ、PTSDなどの精神心理的因子などが原因となり、健康状況が悪化することが知られている。そもそも、日本の医療費窓口負担は医療費抑制政策の影響できわめて高いものとなっている。受診抑制により公的医療費の伸びを抑えることが意図されている。生活苦に悩む被災者が受診抑制をやむなくされた時、手遅れになってから病院に運び込まれる患者が増加するのではないかと危惧される。
 医療費一部負担金免除の重要性を考え、岩手県宮城県では県の補助で一部負担金免除を継続した。同じことがなぜ福島県では実施しないのかが疑問に残る。ただし、医療費問題は政府の責任で手当てを行うものである。復興予算は公共事業などの箱ものだけに使うものではない。被災地の医療費や介護費に当ててこそ意味がある。

岩手・宮城両県の医療費窓口負担減免に関する周回遅れの記事と誤解

 岩手・宮城両県の医療費窓口負担減免に関し、毎日新聞が周回遅れの記事を書いていると誤解してしまった
関連エントリー

 東日本大震災被災者の医療・介護の保険料減免について、岩手・宮城両県の沿岸27市町村のうち、国民健康保険は26市町村、介護保険は21市町村が今月末で打ち切ることが毎日新聞の取材で分かった。後期高齢者医療制度でも両県の広域連合が打ち切る。10月以降の財政支援に関して国が示した条件が実態と合わないため、支援を見込めず財源確保のめどが立たないと判断、大半の自治体が減免継続を断念した。【宮崎隆】

http://mainichi.jp/select/news/20120919k0000m040142000c.html


 昨日書いた関連エントリーと真逆のことが報道された。内容を読んでみると、どうも7月末から8月初めの状況が記載されているようだ。少なくとも、では、一部負担金減免の話をしたが、毎日新聞の記事は保険料減免の話である。なお、後期高齢者医療制度一部負担金減免に関しては、両県の広域連合のホームページでは明確に継続の方針を出している。
 岩手県のホームページを見ても、岩手県知事記者会見 平成24年9月18日知事会見記録で県知事は次のように発言している。

 大震災津波関連補正予算の主な内容についてですが、(中略)第2に「暮らしの再建」としては、被災者の住宅再建に対する補助を増額するほか、医療費の一部負担金や福祉サービスの利用料について、免除措置を続けようとする市町村を支援する予算などを計上しています。


 東日本大震災に関する医療費減免問題は、この1ヶ月あまりで状況が大きく変わった。関係者にこまめに取材していれば情勢の変化に気がついたはずである。毎日新聞の取材能力には疑問がある。ただ、地元の人間は震災関連情報収集にあたっては地方紙の方を重視している。誤報による実害がほとんどないことは幸いである。岩手県知事の発言も、医療費の一部負担金や福祉サービスの利用料の免除措置に関するものである。保険料については触れられていない。どうやら、一部負担金減免は継続されるが、保険料減免は今月末で終了となる予定のようである。毎日新聞の記事は、保険料の話である。一部負担金減免継続の話も触れて欲しかったという思いがする。


<追記> 2012年9月20日 午後0時50分
 毎日新聞の記事は、一部負担金減免についてではなく、保険料減免の話ではないかという、ご指摘がございました。詳しくはコメント欄をご参照ください。
 記事を詳しく読むと確かに保険料のことしか記載されていません。私の勘違いだったようです。お詫び申し上げます。
 まとめると、次のようになります。「岩手・宮城両県では、後期高齢者医療制度自治国保介護保険の窓口負担減免は来年3月末まで続けられるが、保険料減免の方は今月末で打ち切られる。」
 以上の状況で間違いないかどうか、引き続き様々な情報を確認していきたいと存じます。


<追記> 2012年9月20日 午後1時27分
 表題の最後に「と誤解」と付け加えました。
 また、本文の内容も一部変更しました。変更部分は斜体および削除線で示しています。

東日本大震災被災者窓口負担免除、来年3月末まで延長へ

 東日本大震災被災者に対する、国の財政支援措置方法の変更に伴い、市町村国保後期高齢者医療、介護保険の窓口負担の免除打ち切りが危惧されていた。しかし、関係者の努力もあり、宮城県岩手県では、来年3月まで延長される見込みとなった。

関連エントリー


# 後期高齢者医療制度

件名:平成24年10月1日以降の一部負担金免除の取り扱いについて
掲載日:平成24年8月30日

  
東日本大震災により被災した方に対する一部負担金免除措置を平成25年3月31日まで延長いたします。

広域連合 / 行政情報-東北地方太平洋沖地震に係る対応について:::宮城県後期高齢者医療広域連合:::

岩手県後期高齢者医療広域連合では、東日本大震災で被災された被保険者に対する後期高齢者医療の一部負担金免除措置を延長することを決定いたしまし たので、お知らせいたします。


1  延長の期間 平成25年3月31日まて

東日本大震災で被災した被保険者等に係る後期高齢者医療制度の一部負担金の免除期間の延長について H24.9.5掲載


# 市町村国保介護保険

 東日本大震災で被災した国民健康保険国保)加入者の医療費窓口負担と介護サービス利用者の自己負担の減免措置について、宮城県内の全35市町村が来年3月まで半年間延長することが10日、同県のまとめで分かった。
 減免措置の継続に伴う費用は、医療費窓口負担の場合、県が全体の2割を支援し、8割を国が補助する。介護サービス利用者の自己負担分は市町村が約17%を負担し、残りは国などが補助する。

http://www.kahoku.co.jp/news/2012/09/20120911t11022.htm

 東日本大震災の被災者を対象とした医療費や保険料の減免措置を巡り、市町村負担を国が全額肩代わりする制度が9月末に期限を迎える。


 岩手県は4日、国の補助が10月以降、最大8割に切り替わることから、市町村の負担が一律1割となるよう財政支援を行う方針を固めた。県議会9月定例会に関連経費の補正予算案を提出する。


(中略)


 実際に減免措置を存続させるかどうかは市町村の判断に委ねられる。

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=64460


 一方、協会けんぽの減免措置は予定どおり2012年9月末で打ち切られることになった。

 中小企業の従業員と家族らが入る全国健康保険協会協会けんぽ)が、東日本大震災で住宅が全半壊したり、重傷を負ったりした被災者の医療費自己負担を免除する特例措置を9月末で打ち切ることが31日分かった。

http://www.47news.jp/CN/201208/CN2012083101002193.html


 市町村が足並みをそろえて医療費減免を継続できるようにするため、宮城県岩手県では県が一部負担を肩代わりするという方向となった。被災者の健康被害拡大を防ぐ意味で、医療費負担軽減は重要課題であることを自治体関係者が認識し、具体的対応をとった。両県の英断に感謝する。しかし、国が財政措置を延長して医療費減免を継続するのが本来の姿である。復興予算をどこに優先配分するかが問われている。この間の国の対応は、被災者の健康問題軽視を明確に示している。

東日本大震災で心血管疾患の救急搬送が増加

 東北大学病院 - 循環器内科のグループが、European Heart Journalに、Great East Japan Earthquake Disaster and cardiovascular diseases | European Heart Journal | Oxford Academicという論文を発表した。

関連エントリー


 本研究に関する新聞報道については、東北大学病院循環器内科のホームページ内にある記事はこちらからご覧いただけます。の中にある。本日、週刊ポストに『東北大の調査で判明− 「地震が怖くて仕方ない」というあなたのリスク度とは 急増!「地震脳卒中」の恐怖』という記事も掲載された。


 論文の流れは次のようになっている。

  • 先行研究で、大地震のあとに心血管疾患(急性冠症候群、脳卒中、肺塞栓、たこつぼ心筋症、急性心臓死、不安定心室性頻脈)が短期間増加することは知られていた。
  • 東日本大震災における心血管疾患と肺炎の現状を、宮城県における救急車搬送時記録をもとに調査した。対象としたのは、2008〜2011年各年の2月11日から6月30日までの記録である。到着時になされた医師の診断記録(12万4152件)を分析した。救急室で確定診断がつかなかったものは除外した。
  • 救急搬送件数は、震災後2日目の2011年3月12日に急増し、以後、減少した。確定診断率は、2008〜2010年で56.2〜56.7%、2011年で55.5%だった。
  • 心不全(HF)、急性冠症候群(ACS)、脳卒中、心肺停止(CPA)、肺炎いずれも地震後に増加した(Figure 2)。脳卒中では、脳梗塞は増えたが脳出血は増加していなかった。心不全と肺炎は、6週間後まで徐々に減少しながらも増加が続いていた。一方、脳卒中と心肺停止に関しては、4月7日にあったmagnitude 7.0の余震時に2番目のピークを認めた。
  • サブグループ解析では、年齢、性、居住地域(沿岸部、内陸部)で心血管疾患発症の差はなかった。一方、肺炎は、沿岸部において発症が増えたが、年齢、性の影響はなかった。
  • 宮城県では、震災後、多くの人が避難所で過ごし、生活必需物質、水道・電気、医薬品の不足を余儀なくされた。さらに、頻回の余震(震度1以上1025回、3月11日〜4月7日)、低温(仙台市の平均気温3.8℃、3月11日)が状況を悪化させた。このような状況のなか、人びとは極度の身体的精神的ストレスを生じ、交感神経系が亢進したことによる心血管疾患を起こしたおそれがある。


 東日本大震災における心血管疾患に関する大規模研究であり、示唆に富む知見が得られている。関連エントリーでも紹介した、Lancet のreview、http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60887-8/abstractや、本論文に言及したEuropean Heart Journalの解説、Earthquakes: another cause of heart failure? | European Heart Journal | Oxford Academicも参考になる。なかでも面白いのは、Cardiovascular Events during World Cup Soccerである。ドイツで行われたサッカーワールドカップにおいて、ドイツチームの試合において緊急性を要する心疾患が2.66倍になったという結果が出ている。


 本論文は、その規模においても、研究デザインにおいても、第一級の資料である。災害対策が進んでいる日本においても、大災害後に心血管疾患が増加するということは、あまり知られていない。被災3県における主な死因の推移(2012年6月24日)をみても、2010年と比し2011年において被災3県で心疾患、脳卒中による死者が増加している。脳卒中と心肺停止が大規模な余震時に増加しているという興味深い研究結果も出されている。大災害とストレスというテーマは、単にうつ病PTSDといった精神疾患だけの問題ではないことが明確に示されている。心血管疾患対策は災害医療の重要なテーマであるという認識を広める必要がある。