岡山の車はウィンカーを出さない?

 次の記事が話題になっていました。

 

news.livedoor.com

 

 紹介されていた動画はこちらです。


日本一ウインカーを出さない県の驚きの安全策とは・・・?Bubblepack Town

 

  なかなか面白い動画です。岡山県の県民性について初めて知りました。先日、リハ学会で岡山に行ったばかりですが、これほど危険な県とは知りませんでした。

 

 岡山市に行った時、空き時間を使って観光に行ったのですが、主要観光地に行くには地元民の運転を気にする必要はありません。

 出発は岡山駅です。駅前に桃太郎像があります。この近くに市電の駅につながる地下道があります。

f:id:zundamoon07:20170702214131j:image

 

  地下道と地下ショッピング街を通り、市電の岡山駅前駅へ。

 

f:id:zundamoon07:20170702214222j:image

 

 そこから3駅目の城下駅へ。料金はたったの100円です。地下道を通り、岡山城や岡山後楽園はすぐそこです。

 

f:id:zundamoon07:20170702214839j:image

f:id:zundamoon07:20170703202155j:plain

f:id:zundamoon07:20170702214732j:imagef:id:zundamoon07:20170703202208j:plain

 

 ご覧のとおり、岡山は美しい都市です。こんな綺麗な街に住んでいて、どうして運転が荒いのかと不思議に思います。今度行く機会があったら、本当にウィンカーを出さない車が多いのか注意して観察してみたいと思います。

 

 以上、行ったばかりの岡山に関する記事が話題となっていたため、ブログの機能を試すために、You Tubeや写真の貼り付けを行ってみました。はてなダイアリーと比べ、きわめて簡単で、見たままで編集ができます。なかなか快適です。

ブログ名について

 引越しにあたり、ブログ名をつけ直す必要がありました。それなりに読者もいましたから、全く異なる名前にする訳には行かず、結局のところ、ありきたりのところに落ち着きました。検討したブログ名をメモ代わりに記載します。

  • リハ医のドクハク:お前のブログは、独白ではなく、毒吐くだ、と言われたことがありましたので、一時有力候補としましたが、なんでカタカナに変更したか説明するのが面倒そうなのでやめました。
  • 新〜:別に新しいことはしませんし、政党名を見ても、この20年間生まれては消えていった「新」がつく政党にろくなものはなかったという記憶から、最初から考慮に入れませんでした。
  • 〜別館、〜アネックス:古い方は閉じる予定でしたので、並立する印象があると考えて候補から外しました。
  • 〜part 2、〜2:数字が入ると3以降も期待されるのでやめました。
  • 続〜:古くは、続日本書記(しょくにほんしょき)というのもありました。荒野の七人も、猿の惑星も2作目は続〜でした。最近は誰も続〜とはつけないのでかえって新鮮ではないかと考えました。

 古臭い発想しか思い浮かばなかったので仕方がありません。ご容赦をm(_ _)m

はてなブログに移転しました

 本日をもって、はてなブログ続リハ医の独白に移転しました。先ほど、最初のエントリーを公開したばかりです。比べてみると明らかにはてなダイアリーよりは、はてなブログの方が使いやすいことがわかりました。最近は放置状態だったのですが、少しずつ気軽にブログを書いていこうと思っています。

 なお、これまでのエントリーは全て残していきます。管理上の問題もあるので新たなコメント等は記載できないように設定しましたが、tweetやブックマークは可能です。こちらの方も引き続きよろしくお願いいたします。

はてなダイアリーから引越しました

 はてなダイアリーから引越しました。理由は以下のとおりです。

 

 厳密にいうと、はてなダイアリーの新規開設受付は本日で終了してしまいますが、はてなダイアリー自身は残ります。しかし、株式会社はてなより、同種の2つのサービスのうち古い方を終了しますのでより機能に優れたはてなブログの方へ移行してください、という意図が明確に示されたと判断し、余計な手間がかかるなと思いながら、これを機会にはてなブログに移ることにしました。

 

  •  気分転換

 前ブログ「リハ医の独白」を書き始めたのは2007年12月7日で、今年でちょうど10年となります。当初は新しいことに挑戦するという面白さがあり、様々なエントリーをほぼ毎日書いてきました。ただ、実生活で様々な役割を担わざるをえなくなるなかで、震災後の過労も重なり、ブログから遠ざかってしまいました。とりまく状況は全く変わらないのですが、気分転換の意味で引っ越すのも良いかなと思い、決断をしました。

 

 ブログ記載の方針を次のようにします。

  •  気軽に書く: これまでは、構想を練ってから記載することが多かったのですが、ハードルを下げ、備忘録としてなんでも良いから書き留めるという方針に変更します。
  •  ちょっとした分量が必要なものをブログに書く: Twitterは気軽ですが、文字数に制限があるのが難点です。まとまった分量のものはブログに記載することにします。
  •  自分の学習のために書く: 自分の知識であやふやなところを文章にまとめ明確にするというコンセプトでブログを書いてきました。今後もこの方向性は継続していきます。
  •  過去の蓄積を生かす: 旧ブログのエントリーを全て取り込むことも可能でしたが、心機一転の意味であえて残してきました。はてなダイアリーの方は書庫代わりに使います。再度取り上げた方が良いと思ったら、内容を虫干しして、最近の状況を付け加えて書くことにします。

 

 とりあえず、今日から再スタートです。今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

 

PT・OT・ST国家試験合格者発表2017

 理学療法士作業療法士言語聴覚士国家試験の合格者が発表された。国家試験合格発表|厚生労働省に合格率・合格者数が載っている。


 今年の受験者数、合格者数、合格率は以下のとおりである。

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  13,719  12,388  90.3%
作業療法士  5,983  5,007  83.7%
言語聴覚士  2,571  1,951  75.9%


 過去5年間の受験者数、合格者数、合格率を示す。
# 2016年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  12,515  9,272  74.1%
作業療法士  6,102  5,344  87.6%
言語聴覚士  2,553  1,725  67.6%


# 2015年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  12,035  9,952  82.7%
作業療法士  5,324  4,125  77.5%
言語聴覚士  2,506  1,776  70.9%


# 2014年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  11,129  9,315  83.7%
作業療法士  5,474  4,740  86.6%
言語聴覚士  2,401  1,779  74.1%


# 2013年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  11,391  10,104  88.7%
作業療法士  5,279  4,079  77.3%
言語聴覚士  2,381  1,621  68.1%


# 2012年

受験者数 合格者数 合格率
理学療法士  11,956  9,850  82.4%
作業療法士  5,821  4,637  79.7%
言語聴覚士  2,263  1,410  62.3%


 第1回言語聴覚士試験があった1999年から今年までの合格率は以下のとおりである。

理学療法士 作業療法士 言語聴覚士
2017年  90.3%  83.7%  75.9%
2016年  74.1%  87.6%  67.6%
2015年  82.7%  77.5%  70.9%
2014年  83.7%  86.6%  74.1%
2013年  88.7%  77.3%  68.1%
2012年  82.4%  79.7%  62.3%
2011年  74.3%  71.1%  69.3%
2010年  92.6%  82.2%  64.8%
2009年  90.9%  81.0%  57.3%
2008年  86.6%  73.6%  69.5%
2007年  93.2%  85.8%  54.5%
2006年  97.5%  91.6%  62.4%
2005年  94.9%  88.4%  55.8%
2004年  97.9%  95.5%  68.4%
2003年  98.5%  91.6%  42.0%
2002年  95.7%  90.6%  53.8%
2001年  96.9%  94.8%  49.1%
2000年  95.4%  97.5%  42.4%
1999年  93.5%  90.6%  87.9%


 2012〜2017年のPT受験者数を見ると、2014年までは減少を続け、11,129名となった。しかし、その後は増加傾向となり、2017年は過去最高の13,719名となっている。前年度合格率が低く、既卒者が2,998名と多かったことが影響している。新卒者は10,721名であり、前年度とほぼ同じである。合格率は持ち直し、2010年以来の90%超えとなった。新卒者の合格率は96.3%と著しく高い。既卒者も合格者数・率は、前年度の610名31.2%から2,069名69.0%と大幅に持ち直している。昨年落ちた受験者が一念発起して頑張ったのかもしれないが、おそらく前年度と比べ今年度の国試の難易度が低かったことが最大の要因と推測する。
 OTの受験者は前年度の6,102名から5,983名と微減となった。新卒者は5,303名であり、合格者・率は4,800名90.5%となっている。計算すると、既卒者は680名であり、合格者・率は207名30.4%とかなり低い。
 STの受験者数は2,571名と緩やかに増加傾向にしている。既卒・新卒の内訳はわからない。
 この間の規制緩和のなかで、リハビリテーション関連職種養成校は急増した。しかし、国家試験を新卒で受験する者の数をみると、ほぼ頭打ちとなっている。少子化進行とともに、定員割れ起こしている養成校が少なくないと思われる。各養成校が生き残りをかけて教育の質の向上に心がけた結果が合格率上昇に結びついたのなら幸いである。

改正道路交通法で医師の診断書を求められる高齢運転者のほとんどは認知症のおそれありとして対応が必要

 2017年3月12日、改正道路交通法が施行された(下記警察庁のパンフレット参照)。


 各種有識者会議等|警察庁Webサイト内に、高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議の資料がある。第1回会議(2017年1月16日)の資料7 改正道路交通法施行後の医師の診断を受ける者、講習受講者等の推計(下図)を見ると、これまでの制度では医師の診断を受けた者が約4,000人だったのが、新制度では約5万人と大幅に増加する。このうち約1.5万人が免許取消しの対象となると推定されている。


 認知機能検査にて第1分類(認知症のおそれがある)になった高齢運転者に対し診断書提出が義務づけられたことを受け、日本医師会は、かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引きについて|診療支援|診療支援|医師のみなさまへ|日本医師会にて、「かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き」を公表した。本手引きの4ページ、「図1 かかりつけ医による診断書作成フローチャート」に次のような記載がある。

 運転免許センターにおける認知機能検査において第1分類に判定された人は、 *CDR1以上の認知症が強く疑われるレベルに該当しますので、医療機関受診時に行った認知機能検査(HDS-R、MMSE)が20点以下であれば、認知症の可能性が高いと考えられます。


 *CDR: Clinical Dementia Rating(米国CERAD: Consortium to Establish a Registry of Alzheimer's Disease 作成の認知症重症度の評価尺度で、0.5:認知症疑い、1:軽度認知症、2:中等度認知症、3;重度認知症 )


 警察庁のホームページ内に、認知機能検査の実施要領について(平成28年9月30日) がある。総合点の算出と結果の判定は、次のとおりとなっている。

3 総合点の算出と結果の判定


(1)総合点の算出
 総合点は、時間の見当識、手がかり再生及び時計描画の3つの検査の点を、次の計算式に代入して算出する。
 算出した総合点は、少数点以下を切り捨て、整数で表記するものとする。
(計算式)
 総合点=1.15×A+1.94×B+2.97×C
 A 時間の見当識の点
 B 手がかり再生の点
 C 時計描画の点


(2))総合点と結果の判定
 総合点によって、記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類)、記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)又は記憶力・判断力に心配のない者(第3分類)に判定する。
ア 記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類)
 総合点が49点未満
イ 記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)
 総合点が49点以上76点未満
ウ 記憶力・判断力に心配のない者(第3分類)
 総合点が76点以上


 運転免許|警察庁Webサイト内に、認知機能検査の点数配分の元になった研究、平成23年度警察庁委託調査研究報告書/講習予備検査等の検証改善と高齢運転者の安全運転継続のための実験の実施に関する調査研究 (II)がある。
 本研究は、以下の2つのカットオフポイントを設定するために行われた。

  • カットオフポイントA(第3分類と第2分類を区分する総合得点)
    • CDR0 ができる限り第3分類に分類されるという正分類予測率が大きい
    • CDR1及びCDR0.5ができる限り第3分類に分類される誤分類予測率が小さい
  • カットオフポイントB(第2分類と第1分類を区分する総合得点)
    • CDR1が第1分類に分類される、正分類予測率が大きい
    • CDR0.5 及び CDR0が第1分類に分類される誤分類予測率が小さい

 様々な案を検討した結果、カットオフポイントAは-2.7、カットオフポイントBは0と設定された(下表、下図参照)。なお、受検者に分かりやすい点数となるよう計算式を0点から 100 点にすることを検討した結果、総合点=1.15×A+1.94×B+2.97×Cという計算式と、カットオフポイント76点、49点が導き出されている。



 図を見る限り、CDR1とCDR0の判別能力は高い。表を見ると、CDR1が第1分類となる正分類率予測率は83.5%と高くなっている。一方、第1分類になる誤分類予測率はCDR0.5で21.1%、CDR0で0.4%であり、CDR0が第1分類となる確率はきわめて低い。


 以上をまとめると、認知機能検査にて第1分類と判断され医師診断書が求められる高齢運転者のほとんどは、CDR1か0.5だと判断できる。短い診察時間だけでは認知症でないと診断することは難しい。また、HDS-RやMMSEのような認知機能スクリーニング検査がカットオフポイントを上回ったからというだけで運転可と判断することにも問題がある。本来なら、認知症疾患医療センターで判断すべき課題だが、全国でわずか336ヶ所(2016年12月28日現在)しかなく、急激な紹介患者増への対応は困難である。運転免許診断書問題をきっかけに、非認知症専門医でも認知症に対し真剣に取り組まなければいけない時代となっていると腹をくくり、対応を考える必要がある。

モラルの起源

 今回は、クリストファー・ボーム著「モラルの起源」を紹介する。本書は、進化人類学者の著者が、「更新世後期タイプの(Late Pleistocene appropriate)」狩猟採集社会に住む「LPA狩猟採集民」の研究を軸に、道徳、良心、利他行動はどのように進化したのかを述べた書物である。

モラルの起源―道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか

モラルの起源―道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか


 著者の主張をまとめると以下のとおりになる。

  • 人類の祖先、「原初のチンパンジー属」の「利他指数」は、今日のボノボチンパンジーから推定されるのと同じくらい低かった。しかし、集団による社会統制の能力が、初歩的ではあるが、顕著に存在していた。この能力はもっぱら、すぐに性向がばれて怒りを買うタイプのフリーライダー(利己的で競争心が強く、他者を利用する乱暴者)に対して発揮されていた。彼らの自制は報復への恐怖と服従の能力のみにもとづいていた。【原初のチンパンジー属の社会統制】
  • 約25万年前、大きな脳を持つ初期のホモ・サピエンスが登場してかなり後になって、積極的に大型の有蹄動物を狩りを始めた頃に、良心の進化が始まった。集団内の人々が効率よく狩りをするためには、かなり平等に肉を分け合う必要があった。この効率の良さは、気候の変化で地球の環境が厳しくなったとき、集団や地域のレベルで生存にとって不可欠だった。【集団による狩りが良心の進化のきっかけ】
  • 人間がひとたび道徳的になると、ふたつの新しいパターンが発展した。
    • ひとつは、利他的なものに有利な「評判による選択」である。生物学者のリチャード・D・アレグザンダーは「間接互恵」という理論を提唱した。人と連帯できる人は、そうでない人よりもパートナーとして選ばれやすいがゆえに、より子孫を残しやすくなる。このことが「血縁以外への寛大さ」を支える主要メカニズムと考えられる。LPA狩猟採集民のどの社会においても、血縁以外の寛大さが好まれる。また、血縁者に対する身内びいきの援助も、家族の価値を称えるものとしてどの社会でも一致して好まれている。協力、分配などの項目も好まれており、人間は必ず寛大さに関心があるということが広く実証されている。また、利他性の高いグループのほうが、同情や寛大さを示さず、協力的でないグループよりも、子孫が生き延びやすくなることが、利他性を広めることに役立ったと思われる。【評判による選択】
    • もうひとつは、フリーライダーの抑制である。フリーライダーを積極的に処罰する社会的抑制により、利他活動をより効果的に支えられるようになる。特に問題となるフリーライダーは自分がほしいものをもらうだけのアルファ(ボス)タイプの乱暴者であるが、泥棒タイプやいかさま師タイプも標的となる。LPA狩猟採集民の平等主義の進化を対象とした著者の研究では、乱暴者になろうとする人間を、コミュニティーが積極的に、場合によってはかなり暴力的に取り締まることがわかっている。社会統制の手段のなかには、死刑、追放、徹底した仲間外れが含まれており、これらの手段は遺伝子プールに影響を与えたと予想される。力を奪われたアルファは集団の女たちを生殖面で支配することは難しくなり、一夫一妻制の誕生や発展に道を開いた。良心の誕生するきっかけはグループによる社会統制であり、十分な装備で大型の獲物を狩る集団が怒って「逸脱者」を処罰することによって「社会選択」と呼べるものが生じた。なお、乱暴者も、みずからの競争する傾向を社会的に受容させる方向へ導きながら、処罰されそうな場合には表に出さないように自制できるならば、適応度を上げることが可能であり、フリーライダーの遺伝子は消え去ることはなかった。【処罰するタイプの社会選択】
  • 生物学者のロバート・トリヴァースは互恵的利他行動のモデルを作り、長期的な「見返り」の対称性が見られることを示した。互恵的利他行動とは、あとで見返りがあると期待されるために、ある個体が他の個体の利益になる行為を即座の見返りなしでとる利他的行動のことであり、「血縁以外への寛大さ」を理論的に説明できる点で魅力的なものとなっている。しかし、この理論は、血縁関係にないペアが長期にわたってずっと協力し、互いのコストがほぼ釣り合っていて、大きないかさまがない場合に限られるため、日常的な行動との一致という点で説得力はない。【互恵的利他行動モデルの限界】
  • 進化的良心とは、「耐えがたいリスクを負わずに自分自身の利益をどこまで提供できるかを静かにささやく声」である。最もよく適応した良心は臨機応変なものである。トラブルを避けながらうまく生きていけるようにしながら、あまり重要ではないルールをうまく省いて得をすることもできる。社会的によく順応した人間であるわれわれは、良心には完全に支配されていない。むしろ、良心から通知を受け、効果的に、しかし柔軟に、抑制されている。われわれは、競争社会で成功を収めるためにちょっとした道徳的妥協をしながら、それでも基本的にそれなりの評判を維持し、深刻な社会的トラブルを避けている。【良心は臨機応変
  • 良心をもつというのは、コミュニティの価値観に個人的に共鳴することであり、これはつまり、自分の集団のルールを内面化することだとも言える。しかも、感情面でそうしたルールに結びつくのでなければならない。破ると恥ずかしさを感じ、従っていると自己満足を覚え誇らしく思うようにならなければならない。【良心の内面化】
  • 前頭前皮質に物理的ダメージを受けると、道徳観念が損なわれ、社会生活を送ろうとしても難しくなる。また、サイコパスという、生まれつき社会のルールを認めて内面化するのに必要な、感情面の結びつきを持たず、他人への共感も欠いている人もいる。MRIの研究では、サイコパスの傍辺縁系に明らかな異常があった。【サイコパス(良心のない人)の存在】
  • 初期のホモ・サピエンスが含まれる「原初のチンパンジー属」の対立をもたらすものとして、なわばり意識、よそ者嫌いがある。現代の狩猟採集民、さらに言えば人類全てに見られるよそ者嫌いの傾向に関して、注目すべき点のひとつに、「自分たちの道徳律が当てはまるのは自分の集団だけ」というものがある。よそ者に対する恐怖や侮蔑を道徳的に説明する「道徳化」というものをしだすと、自民族中心主義が生じる。この文化的に洗練された動機づけは、従来型の熾烈な戦争や征服、そしてとりわけ破壊的な大量虐殺を支持する手助けをした。【なわばり意識、よそ者嫌い】
  • われわれの最近の祖先は、第一に利己主義者で、第二に身内びいきだったが、遺伝的本性としてかなり利他的でもあった。その結果生じた血縁以外への寛大さが、具体的な公益のビジョンを心に描いて協力する必要が生じたときに、文化の土台となる重要なものをもたらした。間接互恵のシステムは、長年にわたり実に見事に実に柔軟に役立ってきた。人類の知力にこうした社会関係における建設的な側面があるために、われわれの進化のプロセスは特異なものとなった。【利他性が人類進化のプロセスに影響】
  • 平等主義は、乱暴者を用心深く積極的に抑え込むことによってしか維持できない。さまなければ、彼らはフリーライダーとして、自分より利己的でなく力の劣る他者から、公然と自分の欲しいものを奪う。LPA狩猟採集集団とは違い、現在の世界は決して経済面で平等主義ではない。我々の世界は大きすぎ、多様すぎて、危険すぎる。しかし、われわれは皆、向社会性へと方向づけられた基本的な道徳的能力を共有している。より危険の少ないグローバルな道徳的コミュニティを作り出す方向に進めるようになった場合に、この能力を必ず使うことになる。【現代社会における基本的道徳能力への期待】


 本書は、人間の本性に関するかなり刺激的な内容を含んでいる。
 人間は、まずエゴイストであり、次に身内びいきであり、そして、かなり利他的である。加えて、道徳感情に裏づけられた攻撃的な性質も持っている。人間のモラルには、利他性と攻撃性の二面性がある。
 人間を特徴づけている寛大さの問題を考える時、利己的に競い合う個体のなかで利他的なものが多数を占めていく「利他行動のパラドックス」を解決しなければならなくなる。利他的な志向を持つものが遺伝子を残すうえで有利となる可能性を明らかにしようとさまざまなモデルが考えられきたが、アレグザンダーの提唱した「間接互恵」=「評判による選択」が最も有力であることを、著者は繰り返し強調している。と同時に、フリーライダーを積極的に処罰する社会統制も大きな役割を果たしたことも力説している。
 利他性とともに発展してきたフリーライダーへの処罰感情は、なわばり意識やよそ者嫌いの感情とあわせて、人間の攻撃的な面を助長してきている。宗教の名のもとに行われる戦争が最も悲惨である。プロテスタントカトリックの争いに端を発した三十年戦争の結果、ドイツの人口は約1600万から三分の一の600万まで減少したと言われる。イスラム教とキリスト教の争いは、形を変えながら現代まで続き、現代社会に深刻な影を落としている。インターネットの普及とともに、匿名者の「正義感」から炎上現象が生まれきている。
 一方、人間の協力行為は、小さな集団から生まれ、次第に規模を大きくし、近代国家のなかで社会保障などの形で制度化され、さらには、国の枠を超えて広がってきている。東日本大震災における国際的な援助活動は、その典型である。
 利他的でありながら、攻撃的であるという人間の心理がなぜ形づくられてきたかについて、本書は重要な示唆を与えてくれる。感情面に裏打ちされた利他的行動をするという道徳的な能力を人間本来の性質として持っていることを認識すると同時に、正義感の暴走による攻撃行動が悲惨な結果を招きかねないことを意識することが、現代社会に生きる人間として求められることではないかと思う。